みずあめびより
昼休み、真夏の屋上には数人しかいなかった。

鈴太郎は日陰になっている木製のベンチに座り衣緒から受け取った包みを開けた。家に帰ってから開けようと思ったものの、仕事に支障が出てしまいそうなくらい気になって仕方がなかったのだ。

包みを開けると、プチプチと呼ばれる緩衝材(かんしょうざい)に包まれた透明の何かとタッパーが入っていた。

タッパーの中身を開けるとミニトマトだった。緩衝材に包まれていたのは、丸い瓶のハーバリウムだった。加工された薄切りのレモンとライム、レースフラワーとグリーンが入っていた。

瓶の口の下には麻紐がリボン結びされていて、クラフト紙のタグがついていた。書かれていた文字は"Buona(ボナ) notte(ノッテ)."
スマホで調べると、イタリア語で「おやすみなさい。」という意味だった。

あの日車から『乗って。』と声をかけたのを彼女が一瞬、"notte(ノッテ)"と勘違いしたのだった。もちろんそんなことは彼は知る(よし)もなかったが。

そして小さく折り畳まれた便箋も入っていた。
< 44 / 253 >

この作品をシェア

pagetop