みずあめびより
「・・・葉吉さん?」

───キーホルダー、これだよね?なんか部品が足りなかったかな?

塔の中は先程よりも暗くなっていた。彼は一番奥まで進むと手を繋いだまま振り返った。

「・・・ここでさっき、新貝と・・・。」

───聞きたくないけど、聞きたい。二人の間にどんなやりとりがあったのか。

「葉吉さんもお気づきだったんですね。新貝さん、大丈夫でしょうか?駅でもぼうっとしてたし。玉川さんと途中まで一緒みたいだから、一人じゃないし大丈夫かなと思ったんですけど。」

「ん?」

───俺の想像の斜め上をいく予感・・・。

「急に壁に手をついてこちらに倒れ込んで来たんです。とっさに背中さするしかできなくて。あと、胃薬とか鎮痛剤とか飲み過ぎた時用のウコンとか持ってるので、飲みますか?って聞いてみたんですけど、首を横に振られるだけで・・・。」

「・・・。」

「私、お酒飲まないのでウコンが効くのかはわからないんですけど・・・。多分新貝さん、真中さんや玉川さんには気づかれたくなかったんでしょうね、具合悪いこと。お二人、とても盛り上がってらっしゃったから、盛り下げちゃうと思ったのかと。あの時ちょうどお二人がUターンしたから、私に言ったのだと思います。」

「・・・あのさ。」

「はい。」

「彩木さん、勘違いしてるよ。」

───ホッとしたけど、新貝が哀れにも思える。

「ウコンじゃない方がよかったでしょうか?あ、しじみ!?」

「・・・そうじゃなくて、新貝は体調が悪かった訳じゃなくて・・・。」
< 64 / 253 >

この作品をシェア

pagetop