みずあめびより
「あ、そうか。何か落ち込んでたのかもしれませんね・・・。」

衣緒はハッとして俯いた。

「そうでもなくて・・・。男が壁にドン!と手をついて近づいてくるのは、女性がキュンとするしぐさの定番で・・・。イケメン俳優がドラマでやったり、映画の試写会とか宣伝番組とかでお客さんとかカメラに向かってやったりとかするやつで・・・。」

「・・・えっ、ということは・・・わ、私をキュンとさせたかったということで・・・えーと、それはつまり・・・もしかして・・・まさか・・・。」

「・・・そういうことだよ。」

「・・・。」

───好きな人いるか聞いたのや写真も話題作りとかじゃなくてそういうことだったの?

「・・・試してみる?」

───今彼女は今日の新貝の言動について思い返しているのだろう。それは・・・嫌だ。

「え・・・?」

「知った上で、本当にキュンとくるか試してみる?」

鈴太郎は衣緒を優しく誘導し壁の前に立たせると、壁に静かに手をついて顔を近づけてきた。

「誰にも渡さない。」

「!!!!!!!!!!」

「・・・とか、何か言葉を言うんだけど・・・どう?」

「キュンどころじゃなくて、むしろズッキューン・・・みたいな・・・あ、わわ何言ってるんだろ・・・。すみません。」

真っ赤になって俯く。

「・・・。」

そんな彼女を見て鈴太郎は自分の中で何かが外れるのを感じた。

彼女の顎を持ち上げ、そのまま更に顔を近づける。
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