みずあめびより
神社は浴衣や甚平を着た子供達や若者で溢れていた。会社帰りと思われるスーツの人達もいる。

二人はお参りを済ませると屋台を見て歩く。

わたあめ、お面、フランクフルト、金魚すくい、アメリカンドッグ、射的、焼きそば、ヨーヨー釣り、イカ焼き、ソースせんべい、くじ引き、かき氷・・・

ふと、輪投げの屋台の前で衣緒が立ち止まった。

「ん?」

鈴太郎かそれに気づき彼女を見ると、心なしか獲物を狙うハンターのような目をしている。

「あのサボテン、かわいいですね。」

輪投げの景品はほとんどが子供向けのおもちゃだが、大人用なのか透明なケースに入った小さなサボテンがいくつかあった。テラコッタの鉢にサボテンと花や果物の飾りが植えてある。

「本当だ。」

「私、やってみます。」

「え?」

「昔、町内のお楽しみ会なんかでは、『輪投げの鬼』って言われてたんです。運動神経は悪いんですけど。いくら特技でも履歴書には書けないし。・・・やってもいいですか?」

「あ、ああ・・・。」

彼女の圧に圧倒されていると、本人は粛々(しゅくしゅく)と店主にお金を払い輪を3本受け取っていた。

サボテンをじっと見つめ、手首のスナップを効かせて輪を投げる。

見事、お目当てのサボテンに輪が入った。

「おお!」

鈴太郎は思わず拍手をしたが、彼女は喜ぶでもなく集中した様子で、他のサボテンを見つめる。

先程より近くにあったので手首のスナップを調整して投げる。

こちらも綺麗に輪が入った。

「すごい・・・。」

彼の称賛の声にも反応することなく、彼女は最後の輪を持ち、獲物を見定めて輪を投げた。

「!?」

サボテンはまだ残っていたが彼女の輪が捕らえたのは、子供に大人気のヒーローのおもちゃだった。

鈴太郎は失敗か?と思ったが、彼女はふうっと息を吐いてリラックスした表情で振り返った。

「最後のは真中さんの息子さんに。あのヒーロー好きだそうなので。」

店主は彼女がゲットした景品を袋に入れながら言う。

「お姉さん、すごいね!彼氏も輪投げでゲットしたの?あ、旦那か?」

カカカと笑いながら鈴太郎の方を見た。
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