みずあめびより
本気だとわかる鋭い声にビクリとする。

「わわ、わかりました。お話ししますから、離して・・・。」

「いや、このまま聞く。」

新貝は毅然と言い放った。

「こ、このままだと、ちょっと・・・。」

「ドキドキしちゃって話せない?」

必死にコクコクとうなずくと腕が緩められ解放された。恐る恐る彼の方を見るとわずかに満足そうにしている。

「抱きしめられたくないから話すっていうのは傷つくけど。ドキドキしてくれたんならまぁいいや。話聞くからそこの自販でコーヒー奢ってくださいね。」


衣緒は屋上の入り口にある自動販売機で新貝のコーヒーと自分用にお茶を買った。喉が乾いていたわけではなかったが、話の間が持たない時、飲み物があると役に立つと思った。

昨日はキーホルダーを見つけたお礼で鈴太郎とカフェに行く予定だったことを話す。その為にはバーベキューの後二人でキーホルダーを探した話をする必要があった。探しものは迷路の塔の入り口にあって・・・その後の『チュー未遂』について話すと新貝は血相を変えた。

「は!?俺に便乗してキスしようとしたってこと!?」

「その・・・あれは・・・私が、あれが胸キュンな行動っていうことを知らなかったものだから、それを知った上で本当にキュンとするのか試しにって・・・。本当にごめんなさい。」

「・・・。」

新貝は頭を下げる衣緒をじっと見つめ、がばっと荒々しく抱きしめた。
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