自分を好きになれ
〜ウキウキな高校生活〜
「おはよー!」
廊下で友達とすれ違っては挨拶を交わす、いつもと変わらぬ当たり前の日常。その日はぽかぽかしていてなんだか気分が良かった。窓から入ってくる暖かい風が私の頬をなでた。外は桜の花びらが散っていて、ついに高校生になったのだと感じさせられた。私は中高一貫校に通っていたためあまり中学から高校へ進学する事に大きな楽しみはなかったが、やはり高校生になれたというのは嬉しいものだった。
「今年も一緒のクラスだね!も〜、1人だったらどうしようかと思ったよー。ぼっちぼっち笑」
私は美久に言った。美久とは中学から仲が良く、信頼している友達だ。
「今年もよろしくね!」
そんな何気ない会話を交わし、私の高校生活が始まったのであった。
〜恋心〜
私には中学3年生の時からずっと好きな男の子がいた。名前は亮だ。亮は真面目で性格が良く、人想いであった。(私にはそう見えた。)亮は恥ずかしがり屋なのか、あまり異性と話さない人だった。そんな所も私にとってはなんだか魅力的に見えた。
そんなある日、私は思い切って亮に連絡をした。
[もうすぐ夏休みだけど、もし良かったら一緒に遊びに行かない?]
ドキドキしながら返事を待っていると、ピコンッ。
[いいよー。]
嬉しかった。
[本当?!ありがとう!どこ行きたいとか、ある?]
[遊園地行きたい!]
意外とあっさり決まったことに驚いたが胸が高まっているのは確かであった。
夏休みも終わりを迎え、2人での遊びも楽しめた事もあり、亮への思いが一層強くなっていった。
〜汚い心①〜
「あーもうっ!物理全然分からん!」
私はいわゆる理系女子だが物理が大の苦手であった。
「どこ?教えたる。」
隣の席の拓人が私のノートを覗き込んで言った。その日、拓人のおかげで私はなんとか物理を乗り切ることが出来た。今年初めて同じクラスになり、初めて会話をしたため、友達とは言い難いが、その夜一応お礼の連絡をした。その連絡をきっかけに、学校でもたくさん話すようになり、仲良くなっていった。
風も冷たくなり、もうすぐクリスマスの季節になるある日のこと。
ピコンッ。拓人からだった。
[俺と付き合ってほしい。]
私は一瞬目を疑った。しばらく体が固まったが、
[ごめん。好きな人がいるんだ。]
そりゃそうだ。私には中学3年生の時から好きな人がいる。けれど、告白されたのは初めてだったから嬉しい気持ちでもあった。
その後も何度か思いを伝えてくれたので、亮のことが好きだったのにも関わらずOKをした。しかし、この恋愛をきっかけに自分の心の汚さが現れてくるのであった。
〜汚い心②〜
「俺らが付き合ってること公表しちゃう?笑」
「絶対にイヤだ。」
拓人は、中学の頃から女遊びがすごいという噂を耳にしていたため絶対に皆には知られたくなかった。けれど、拓人は思いをブラすことなく一途に私を愛してくれた。私と拓人はお互い束縛が強かったために、2人だけの世界を形成していった。私は初めて誰かと付き合ったというのもあって、恋愛が何なのかよく分かっていなかった。お互いに愛し、約束を守り、それだけで幸せであった。
[明日どこか出掛けよっか!]
通知を見ると拓人からだった。
[うん!行こー!カラオケ行きたい!]
翌日。好きな曲をたくさん歌って充実した1日を送る、はずだった。
カラオケ終了時間も近づいてきた頃、
「お互いの携帯見せ合おう」
「やだよ。」
「俺のも見せるから。」
拓人は自分の携帯を私に差し出し、もう片方の手を、私の携帯をくれという様子で差し出してきた。私は必死に抵抗するも、やはり男子高校生の力には敵わない。拓人には暗証番号を教えていたため携帯の中身を確認された。
「なんで男と連絡とってんの?約束しただろ!?連絡とるなって!」
すると、突然拓人は私の首を絞めてきた。
「ごめんな...さい..」
死にかけそうになる直前で、拓人は首から手を離しこう言った。
「もう次約束破ったら許さないからね。痛い思いさせてごめんね。」
「...うん。」
私は何がなんだか分からず、頭真っ白の状態で返事をした。
家に帰り、今日あった出来事をよく考えてみた。
考えれば考えるほど分からなくなり、結局この考えで納得した。
(約束破ったのは事実だし、拓人は私との約束を守ってくれている。それに、ここまでして怒るのは私のことを愛してくれている証拠なんだ。)と。
正直私は、暴力を振るわれたことを苦に思わなかったし、拓人をずっと愛していた。優しい時は私も幸せだったし、もっと思い出を築き上げていきたいと思った。
〜友情か恋愛か〜
キーンコーンカーンコーン。
授業終了チャイムが鳴ると、私の席にクラスメイトである未羽が来た。
「ねえね、聞いたんだけどさ、拓人と付き合ってるんだって?」
私は絶望に陥った。どうして知っているんだ。あれだけ隠していたのに...。
だが知られてしまっては逃げられない。
「う、うん...。今まで黙っててごめんね。私のこと嫌いにならないでね..。」
私は泣いてしまった。私は弱い人間だ。そのくせ欲張りだ。と自分の中で感じるのだった。
この噂が広まったことで、仲の良い友達であった琴音に口を聞いてもらえなくなった。琴音は、拓人のことが昔から嫌いだった事は知っていたけれど、それだけで嫌われるなんて思ってもいなかったからショックで崩れてしまった。今まで私は、誰かに嫌われないように過ごしていた。それがこの噂をきっかけに全て崩れた。
私は弱い。とても弱い。私は拓人と別れることを決意し、友情の方を優先してしまった。
翌日、学校で琴音にこの事を話した。
「私、あいつと別れた。」
「えっ!?本当!?やっと正常に戻ってくれた〜!」
琴音は私に抱きついてきた。
私はとても嬉しくて、失ったものが再び戻ってくるような感覚を覚えた。普通、第三者からこの状況を見たら、それは本当の友情というの?と疑問を持たれるかもしれない。けれど、誰にも嫌われたくなかった私は、そんな事は1ミリも思わず喜んだ。
そして、私と拓人が別れた事は学年中に広がった。こうしてまた、元の生活に戻る、はずだった。
〜成長しない私〜
友人たちと仲良く過ごす日々は幸せであったが、拓人がいない生活はやはり苦痛であった。なぜなら、友情を選んで別れを告げただけであって、まだ拓人が大好きで忘れられなかったからである。私は拓人にもう一度やり直したいと言われ、寄りを戻してしまった。こうしてまた、皆に嘘をつきながら付き合う生活が再スタートした。異性と話すと暴力を振るわれる生活は何ら変わりなかったが、ついにある日、恐怖を覚える。
〜信頼できる友〜
[もう喧嘩ばっかで、別れた方がいいよ、、。別れて下さい。]
[絶対に嫌だ。俺と別れるんだったら、お前の周りの人全員苦しめてやるから。]
[は?それはやめて!周りにだけは手出さないで!]
今まで拓人とは何度も喧嘩をしていたが、流石にもう心が疲れていることに気付いた。
私は、拓人と別れられない、このままで良いのかと思い、つい最近仲良くなりお互いに恋愛相談していた智美に電話した。
「もしもし...」
「どうしたの!?何かあった?!」
「ごめん私、実はまだ拓人と付き合ってて、さっき別れよって言ったんだけど、別れたらお前の周りを苦しめるって言われてどうすればいいかわからないの...」
「分かった。言ってくれてありがとう。明日先生に相談してみよう。」
「うん...今まで黙っててごめんなさい..」
泣きながら智美に電話をし、次の登校日に先生に相談することになった。
〜信頼してたのに〜
「先生、相談があります。」
智美は私を職員室へ連れて行き、付き添ってくれた。全ての事を先生に話し、私がデートDVを受けていた事を教えてくれた。まだ知識不足だった私は、デートDVだと分かっていなかったからとても衝撃だった。
私は彼と別れた。周りの友人たちはとても優しくて、今まで嘘を付いていた私を、そんなのどうでもいいよ、辛かったねと言ってくれた。
けれど、智美はそれ切り口を聞いてくれなくなった。しまいには、先生に相談しない方が良かった。と言っているのを耳にした。
私はとてもショックだった。信頼していたのに、いざ解決したら、誰よりも早く手を引いてしまいには私のことを悪く言っていたなんて。その晩、私はベッドにうずくまり、泣きまくった。
〜精神的崩壊〜
高校生というだけあって、大学受験真っ只中であったが、私はそんな気では全くなかった。
愛していた彼にデートDVをされていたと知らされた挙句、信頼していた友達がいなくなってしまった。勉強するのも精一杯だったが、なんとか心の支えになってくれたのは美久だった。
私は智美に対して、これまで自分が人にこんな感情を抱くんだと驚くほど、強い恨みを持ってしまった。
(智美とはもう話せない...。関わると苦しくなる...。)
そんな思いがあった。
毎日を過ごしていくうちに、態度に表れていたせいか、智美も完全に私を避けるようになった。
〜好きだったあの人〜
高校3年の秋、亮から突然連絡が来た。
[今日何時まで勉強する?]
ビックリした。どうして急に?!
[0時かな。]
[分かった。じゃ俺もそれくらいまでやる!]
中学3年生の時から好きだったため、少し嬉しかったが、今日だけなのだろうとあまり気にしなかった。
けれどその後毎日連絡が来るようになり、私と亮は受験をお互い乗り越えるようになった。
ある日、亮からこんな事を言われた。
「もし受験が終わってからも両思いだったら、付き合おう。」
私はもちろんOKをした。この約束のお陰で、なんとか受験を乗り越えられ、無事大学に合格。
受験が終わり、まだどちらからも告白をしていないが、これは付き合っているということなのか?私は物凄く疑問だったが、自分から気持ちを言う勇気はなく、この状態のまま毎日亮と連絡を取り合っていた。
〜忘れられないあいつ〜
どんな関係なのか分からない私と亮。でも私はまだ忘れられない人がいた。拓人だ。あれだけ長く付き合っていたのだから、思い出だってたくさんある。忘れようと日々頑張ってはいたが結局無理だった。
受験が終わった後、私と拓人はお互いの大学合格報告の連絡をしたのをきっかけに、再び連絡を取るようになった。
すると、拓人は、ずっと私のことが好きだったようで付き合いたいと言われた。
亮と拓人の2人と連絡をとっている私は、そのうち
(こんなんでいいのか。ちゃんとどちらかとは連絡を断つべきではないか。)
という事をよく考えるようになっていた。
私は、2人と連絡をとっているうちに、自分はとても卑怯で惨めな奴だと、どんどん自分の嫌な所ばかりが目につくようになった。
〜成長する自分〜
[自分の気持ちを整理したいから、1ヶ月程連絡を断たせて下さい。自分勝手でごめんね。]
私は、亮と拓人の2人にこの連絡をした。
2人と連絡を断ってから、自分自身を見つめ直すことができた。今まで恋愛ばかりに囚われていて、視野が完全に狭くなっていた私がいたことに気付かされたのだ。
その期間は自分の好きなピアノを熱心に練習し、自分と向き合う毎日が続いた。
(自分の好きな事を好きなだけやれるって、こんなに気持ち良いんだ...。今までなんで気づかなかったんだろ...。)
私は中学の時から周りの目を気にして良いように振る舞ってきた。それが原因で色々な人に迷惑をかけ、嫌われたくないから嘘をついてきた。
だがそれは間違っていたのだと分かった。
この期間で分かったことはたくさんあり、遂に気持ちの整理がついた。
[亮へ。待っててくれてありがとう。これからもよろしくお願いします。]
[拓人へ。自分の気持ちの整理がつきました。私は拓人とはお付き合いする事は出来ません。今までたくさんの思い出をありがとう。]
〜自分をしっかり持つこと〜
私はもう大学生となります。学生の頃を振り返ってみると、本当に自分はダメ人間だったと思い知らされます。けれど、この経験のおかげで学んだ事はたくさんあります。
まず1つ目は、智美のこと。
智美はきっと、優柔不断ではっきりしない私を変えてくれようとしてくれてたのだと思います。智美は、本当にしっかりしていて、私の事を夜も眠れないくらい心配してくれていた事は、後々教えてくれました。もともと仲が良かった事もあり、私自身もどうしてこうなったのだろうか、と考えた事はあります。けれどこれは、私が弱いために起きてしまったのだと。
今でも智美とは関わりを持っていませんが、卒業式の時に、
「迷惑かけちゃってごめんね。」
って言えた事、後悔してないし、むしろ話せて良かったなと思っています。またいつか、再会できたら前みたいに楽しく会話したいなと思います。
2つ目は拓人のこと。
私と拓人は2人だけの世界を持っていました。あれはするなこれはするな、約束を守れだの。でもこれは、本当の愛ではないのだと思います。本当に愛していて、信頼しているなら、約束事など細かく作らないからです。自分の好きな事をやったり、友達と話したり、もっと広く世界を見るべきだったなと。でも、拓人との思い出は今でも私の宝物です。捉え方が変われば見方も変わります。世界が明るく見えてくると思うんです。
3つ目は、支えてくれた友人、先生、家族のこと。たとえ嫌われたくないからと言って嘘をつき続けるのは間違いです。世界中の皆が自分のことを良いように見てくれるわけではない。考え方は十人十色です。自分を持っていれば、自信となり、それを認めてくれる人たちも必ずいるのだから、もっとありのままに生きて良いのだと。
この学んだ事をしっかり胸に刻み、これから明るく自信に満ち溢れる生活を送りたいと思っています。そして、出会った人々に感謝を忘れず、時には苦しい時があっても前を向いて進んで行こうと思います。
私の好きな言葉を紹介します。
「どうせ生きているからには、苦しいのは当たり前だと思え。」
これは、芥川龍之介さんの言葉です。
苦しい事を乗り越えてこそ、気づかされる事はあるし、自分は成長していきます。もっと自信を持っていいのだ、もっと自分を好きになれ、と教えてくれた気がします。
ヘレン・ケラーの素敵な言葉もあります。
「1つの幸せの扉が閉じる時、別の扉が開きます。しかし、私たちは閉じた扉に目を奪われるあまり、開いた扉に気づかないのです。」
この言葉は、私の心に大きく響きました。例え忘れられないことがあって辛くても、それを心のアルバムに大切に閉まっておけば良いのです。後ろばかり見ていては前に進めないのだと。
〜最後に〜
優柔不断で周りのことばかり気にしていた私でしたが、今は何も怖くありません。もし、昔の私のように、周りのことを気にしていて日々窮屈に暮らしている方がいたら、自分を好きになれと言いたいです。そして、自信を持ってください。そうすれば必ず、明るい未来が待っているはずです。
「おはよー!」
廊下で友達とすれ違っては挨拶を交わす、いつもと変わらぬ当たり前の日常。その日はぽかぽかしていてなんだか気分が良かった。窓から入ってくる暖かい風が私の頬をなでた。外は桜の花びらが散っていて、ついに高校生になったのだと感じさせられた。私は中高一貫校に通っていたためあまり中学から高校へ進学する事に大きな楽しみはなかったが、やはり高校生になれたというのは嬉しいものだった。
「今年も一緒のクラスだね!も〜、1人だったらどうしようかと思ったよー。ぼっちぼっち笑」
私は美久に言った。美久とは中学から仲が良く、信頼している友達だ。
「今年もよろしくね!」
そんな何気ない会話を交わし、私の高校生活が始まったのであった。
〜恋心〜
私には中学3年生の時からずっと好きな男の子がいた。名前は亮だ。亮は真面目で性格が良く、人想いであった。(私にはそう見えた。)亮は恥ずかしがり屋なのか、あまり異性と話さない人だった。そんな所も私にとってはなんだか魅力的に見えた。
そんなある日、私は思い切って亮に連絡をした。
[もうすぐ夏休みだけど、もし良かったら一緒に遊びに行かない?]
ドキドキしながら返事を待っていると、ピコンッ。
[いいよー。]
嬉しかった。
[本当?!ありがとう!どこ行きたいとか、ある?]
[遊園地行きたい!]
意外とあっさり決まったことに驚いたが胸が高まっているのは確かであった。
夏休みも終わりを迎え、2人での遊びも楽しめた事もあり、亮への思いが一層強くなっていった。
〜汚い心①〜
「あーもうっ!物理全然分からん!」
私はいわゆる理系女子だが物理が大の苦手であった。
「どこ?教えたる。」
隣の席の拓人が私のノートを覗き込んで言った。その日、拓人のおかげで私はなんとか物理を乗り切ることが出来た。今年初めて同じクラスになり、初めて会話をしたため、友達とは言い難いが、その夜一応お礼の連絡をした。その連絡をきっかけに、学校でもたくさん話すようになり、仲良くなっていった。
風も冷たくなり、もうすぐクリスマスの季節になるある日のこと。
ピコンッ。拓人からだった。
[俺と付き合ってほしい。]
私は一瞬目を疑った。しばらく体が固まったが、
[ごめん。好きな人がいるんだ。]
そりゃそうだ。私には中学3年生の時から好きな人がいる。けれど、告白されたのは初めてだったから嬉しい気持ちでもあった。
その後も何度か思いを伝えてくれたので、亮のことが好きだったのにも関わらずOKをした。しかし、この恋愛をきっかけに自分の心の汚さが現れてくるのであった。
〜汚い心②〜
「俺らが付き合ってること公表しちゃう?笑」
「絶対にイヤだ。」
拓人は、中学の頃から女遊びがすごいという噂を耳にしていたため絶対に皆には知られたくなかった。けれど、拓人は思いをブラすことなく一途に私を愛してくれた。私と拓人はお互い束縛が強かったために、2人だけの世界を形成していった。私は初めて誰かと付き合ったというのもあって、恋愛が何なのかよく分かっていなかった。お互いに愛し、約束を守り、それだけで幸せであった。
[明日どこか出掛けよっか!]
通知を見ると拓人からだった。
[うん!行こー!カラオケ行きたい!]
翌日。好きな曲をたくさん歌って充実した1日を送る、はずだった。
カラオケ終了時間も近づいてきた頃、
「お互いの携帯見せ合おう」
「やだよ。」
「俺のも見せるから。」
拓人は自分の携帯を私に差し出し、もう片方の手を、私の携帯をくれという様子で差し出してきた。私は必死に抵抗するも、やはり男子高校生の力には敵わない。拓人には暗証番号を教えていたため携帯の中身を確認された。
「なんで男と連絡とってんの?約束しただろ!?連絡とるなって!」
すると、突然拓人は私の首を絞めてきた。
「ごめんな...さい..」
死にかけそうになる直前で、拓人は首から手を離しこう言った。
「もう次約束破ったら許さないからね。痛い思いさせてごめんね。」
「...うん。」
私は何がなんだか分からず、頭真っ白の状態で返事をした。
家に帰り、今日あった出来事をよく考えてみた。
考えれば考えるほど分からなくなり、結局この考えで納得した。
(約束破ったのは事実だし、拓人は私との約束を守ってくれている。それに、ここまでして怒るのは私のことを愛してくれている証拠なんだ。)と。
正直私は、暴力を振るわれたことを苦に思わなかったし、拓人をずっと愛していた。優しい時は私も幸せだったし、もっと思い出を築き上げていきたいと思った。
〜友情か恋愛か〜
キーンコーンカーンコーン。
授業終了チャイムが鳴ると、私の席にクラスメイトである未羽が来た。
「ねえね、聞いたんだけどさ、拓人と付き合ってるんだって?」
私は絶望に陥った。どうして知っているんだ。あれだけ隠していたのに...。
だが知られてしまっては逃げられない。
「う、うん...。今まで黙っててごめんね。私のこと嫌いにならないでね..。」
私は泣いてしまった。私は弱い人間だ。そのくせ欲張りだ。と自分の中で感じるのだった。
この噂が広まったことで、仲の良い友達であった琴音に口を聞いてもらえなくなった。琴音は、拓人のことが昔から嫌いだった事は知っていたけれど、それだけで嫌われるなんて思ってもいなかったからショックで崩れてしまった。今まで私は、誰かに嫌われないように過ごしていた。それがこの噂をきっかけに全て崩れた。
私は弱い。とても弱い。私は拓人と別れることを決意し、友情の方を優先してしまった。
翌日、学校で琴音にこの事を話した。
「私、あいつと別れた。」
「えっ!?本当!?やっと正常に戻ってくれた〜!」
琴音は私に抱きついてきた。
私はとても嬉しくて、失ったものが再び戻ってくるような感覚を覚えた。普通、第三者からこの状況を見たら、それは本当の友情というの?と疑問を持たれるかもしれない。けれど、誰にも嫌われたくなかった私は、そんな事は1ミリも思わず喜んだ。
そして、私と拓人が別れた事は学年中に広がった。こうしてまた、元の生活に戻る、はずだった。
〜成長しない私〜
友人たちと仲良く過ごす日々は幸せであったが、拓人がいない生活はやはり苦痛であった。なぜなら、友情を選んで別れを告げただけであって、まだ拓人が大好きで忘れられなかったからである。私は拓人にもう一度やり直したいと言われ、寄りを戻してしまった。こうしてまた、皆に嘘をつきながら付き合う生活が再スタートした。異性と話すと暴力を振るわれる生活は何ら変わりなかったが、ついにある日、恐怖を覚える。
〜信頼できる友〜
[もう喧嘩ばっかで、別れた方がいいよ、、。別れて下さい。]
[絶対に嫌だ。俺と別れるんだったら、お前の周りの人全員苦しめてやるから。]
[は?それはやめて!周りにだけは手出さないで!]
今まで拓人とは何度も喧嘩をしていたが、流石にもう心が疲れていることに気付いた。
私は、拓人と別れられない、このままで良いのかと思い、つい最近仲良くなりお互いに恋愛相談していた智美に電話した。
「もしもし...」
「どうしたの!?何かあった?!」
「ごめん私、実はまだ拓人と付き合ってて、さっき別れよって言ったんだけど、別れたらお前の周りを苦しめるって言われてどうすればいいかわからないの...」
「分かった。言ってくれてありがとう。明日先生に相談してみよう。」
「うん...今まで黙っててごめんなさい..」
泣きながら智美に電話をし、次の登校日に先生に相談することになった。
〜信頼してたのに〜
「先生、相談があります。」
智美は私を職員室へ連れて行き、付き添ってくれた。全ての事を先生に話し、私がデートDVを受けていた事を教えてくれた。まだ知識不足だった私は、デートDVだと分かっていなかったからとても衝撃だった。
私は彼と別れた。周りの友人たちはとても優しくて、今まで嘘を付いていた私を、そんなのどうでもいいよ、辛かったねと言ってくれた。
けれど、智美はそれ切り口を聞いてくれなくなった。しまいには、先生に相談しない方が良かった。と言っているのを耳にした。
私はとてもショックだった。信頼していたのに、いざ解決したら、誰よりも早く手を引いてしまいには私のことを悪く言っていたなんて。その晩、私はベッドにうずくまり、泣きまくった。
〜精神的崩壊〜
高校生というだけあって、大学受験真っ只中であったが、私はそんな気では全くなかった。
愛していた彼にデートDVをされていたと知らされた挙句、信頼していた友達がいなくなってしまった。勉強するのも精一杯だったが、なんとか心の支えになってくれたのは美久だった。
私は智美に対して、これまで自分が人にこんな感情を抱くんだと驚くほど、強い恨みを持ってしまった。
(智美とはもう話せない...。関わると苦しくなる...。)
そんな思いがあった。
毎日を過ごしていくうちに、態度に表れていたせいか、智美も完全に私を避けるようになった。
〜好きだったあの人〜
高校3年の秋、亮から突然連絡が来た。
[今日何時まで勉強する?]
ビックリした。どうして急に?!
[0時かな。]
[分かった。じゃ俺もそれくらいまでやる!]
中学3年生の時から好きだったため、少し嬉しかったが、今日だけなのだろうとあまり気にしなかった。
けれどその後毎日連絡が来るようになり、私と亮は受験をお互い乗り越えるようになった。
ある日、亮からこんな事を言われた。
「もし受験が終わってからも両思いだったら、付き合おう。」
私はもちろんOKをした。この約束のお陰で、なんとか受験を乗り越えられ、無事大学に合格。
受験が終わり、まだどちらからも告白をしていないが、これは付き合っているということなのか?私は物凄く疑問だったが、自分から気持ちを言う勇気はなく、この状態のまま毎日亮と連絡を取り合っていた。
〜忘れられないあいつ〜
どんな関係なのか分からない私と亮。でも私はまだ忘れられない人がいた。拓人だ。あれだけ長く付き合っていたのだから、思い出だってたくさんある。忘れようと日々頑張ってはいたが結局無理だった。
受験が終わった後、私と拓人はお互いの大学合格報告の連絡をしたのをきっかけに、再び連絡を取るようになった。
すると、拓人は、ずっと私のことが好きだったようで付き合いたいと言われた。
亮と拓人の2人と連絡をとっている私は、そのうち
(こんなんでいいのか。ちゃんとどちらかとは連絡を断つべきではないか。)
という事をよく考えるようになっていた。
私は、2人と連絡をとっているうちに、自分はとても卑怯で惨めな奴だと、どんどん自分の嫌な所ばかりが目につくようになった。
〜成長する自分〜
[自分の気持ちを整理したいから、1ヶ月程連絡を断たせて下さい。自分勝手でごめんね。]
私は、亮と拓人の2人にこの連絡をした。
2人と連絡を断ってから、自分自身を見つめ直すことができた。今まで恋愛ばかりに囚われていて、視野が完全に狭くなっていた私がいたことに気付かされたのだ。
その期間は自分の好きなピアノを熱心に練習し、自分と向き合う毎日が続いた。
(自分の好きな事を好きなだけやれるって、こんなに気持ち良いんだ...。今までなんで気づかなかったんだろ...。)
私は中学の時から周りの目を気にして良いように振る舞ってきた。それが原因で色々な人に迷惑をかけ、嫌われたくないから嘘をついてきた。
だがそれは間違っていたのだと分かった。
この期間で分かったことはたくさんあり、遂に気持ちの整理がついた。
[亮へ。待っててくれてありがとう。これからもよろしくお願いします。]
[拓人へ。自分の気持ちの整理がつきました。私は拓人とはお付き合いする事は出来ません。今までたくさんの思い出をありがとう。]
〜自分をしっかり持つこと〜
私はもう大学生となります。学生の頃を振り返ってみると、本当に自分はダメ人間だったと思い知らされます。けれど、この経験のおかげで学んだ事はたくさんあります。
まず1つ目は、智美のこと。
智美はきっと、優柔不断ではっきりしない私を変えてくれようとしてくれてたのだと思います。智美は、本当にしっかりしていて、私の事を夜も眠れないくらい心配してくれていた事は、後々教えてくれました。もともと仲が良かった事もあり、私自身もどうしてこうなったのだろうか、と考えた事はあります。けれどこれは、私が弱いために起きてしまったのだと。
今でも智美とは関わりを持っていませんが、卒業式の時に、
「迷惑かけちゃってごめんね。」
って言えた事、後悔してないし、むしろ話せて良かったなと思っています。またいつか、再会できたら前みたいに楽しく会話したいなと思います。
2つ目は拓人のこと。
私と拓人は2人だけの世界を持っていました。あれはするなこれはするな、約束を守れだの。でもこれは、本当の愛ではないのだと思います。本当に愛していて、信頼しているなら、約束事など細かく作らないからです。自分の好きな事をやったり、友達と話したり、もっと広く世界を見るべきだったなと。でも、拓人との思い出は今でも私の宝物です。捉え方が変われば見方も変わります。世界が明るく見えてくると思うんです。
3つ目は、支えてくれた友人、先生、家族のこと。たとえ嫌われたくないからと言って嘘をつき続けるのは間違いです。世界中の皆が自分のことを良いように見てくれるわけではない。考え方は十人十色です。自分を持っていれば、自信となり、それを認めてくれる人たちも必ずいるのだから、もっとありのままに生きて良いのだと。
この学んだ事をしっかり胸に刻み、これから明るく自信に満ち溢れる生活を送りたいと思っています。そして、出会った人々に感謝を忘れず、時には苦しい時があっても前を向いて進んで行こうと思います。
私の好きな言葉を紹介します。
「どうせ生きているからには、苦しいのは当たり前だと思え。」
これは、芥川龍之介さんの言葉です。
苦しい事を乗り越えてこそ、気づかされる事はあるし、自分は成長していきます。もっと自信を持っていいのだ、もっと自分を好きになれ、と教えてくれた気がします。
ヘレン・ケラーの素敵な言葉もあります。
「1つの幸せの扉が閉じる時、別の扉が開きます。しかし、私たちは閉じた扉に目を奪われるあまり、開いた扉に気づかないのです。」
この言葉は、私の心に大きく響きました。例え忘れられないことがあって辛くても、それを心のアルバムに大切に閉まっておけば良いのです。後ろばかり見ていては前に進めないのだと。
〜最後に〜
優柔不断で周りのことばかり気にしていた私でしたが、今は何も怖くありません。もし、昔の私のように、周りのことを気にしていて日々窮屈に暮らしている方がいたら、自分を好きになれと言いたいです。そして、自信を持ってください。そうすれば必ず、明るい未来が待っているはずです。