隣の席で青春くん
ガチャ
扉を少し開けて、辺りを確認する。
「赤澤くーん…」
蚊の鳴くような声で呼んでも、誰も反応しない。
そりゃそうだよね…ここからリビングまで距離あるし。
だからって大声で呼ぶのも恥ずかしい。
出来れば、赤澤くんのお母さんが気づいて来てくれるのが有難い。
「先に服着てからでもいいか…」
「何してんの?」
服を着ようとタオルに手をかけた瞬間、横から聞こえてきた声に顔を向ける。
「あ……赤澤くん」
「なんでドア開けたまま着替えようとしてんの…見せたいの?」
その言葉にボッと顔が熱くなる。
「ち、違うよ!これには訳があって」
「どんな?」
「この洗顔とか…勝手に使ってもいいのかなって思って、聞こうと思ったの」
「それで?」
「でも、呼んでみたけど…誰も来ないからとりあえず服を着てから聞きに行こうと…」
「それで開けたまま着替えようとしたわけだ?」
ジリジリと近づいてくる赤澤くんに、精一杯身体をタオルで覆う。
「これは不注意っていうか…」
「見られてもいいって事でしょ?見ててあげるよ」
「え!?」
「…危機感無さすぎ」
胸元にあったタオルに手をかけられ、ビクッと身体が震える。
「あ、赤澤く…」
「俺にも見せられる?」
「ちょ、ちょっと…!!」
目の前に、赤澤くんの綺麗な顔がある。
それだけでも顔から火が出るくらい恥ずかしいのに。
こんな…!
「柚月ー?お皿片付けるの手伝いってー」
ぎゅっと目を瞑った瞬間、奥からお母さんの声が聞こえてきた。
「…早く着替えな。風邪ひく」
赤澤くんは、静かに口を開いた後扉を閉めてリビングへ向かった。
「……」
び、びっくりした……
腰を抜かしたのか、その場に座り込んで力が出なかった。