隣の席で青春くん
ガチャ
「赤澤くん、お母さんが朝ごはん食べるなら下に来なさいだって」
「んー」
赤澤くんは着替えも終わっており、優雅にコーヒーを飲みながらテレビを見ていた。
「佐伯さんは?」
「え?」
「今日何も予定ないの?」
「あ…うん、特には。ていうか、いつも暇なんだけどね…あはは」
部活も入ってないし、特にバイトもしていない。
翔子とかから誘われない限り、私はいつも暇である。
赤澤くんはコーヒーを飲みながら時計を見る。
「漫画は結局何巻まで読んだの?」
「あ、結構読んだよ。あと残り10巻くらいかな」
「お、凄いじゃん」
「私あんまり漫画読まないんだけど、凄い面白かったよ!すぐにこの世界に引き込まれるって言うか…」
「分かる。この漫画面白いよね」
優しく笑ってくれる赤澤くんにドキッとする。
赤澤くんに教えてもらったから…って訳じゃないけど、キャラクターの中で1番好きになってしまった。
赤澤くんが声をあてるキャラが。
最初から自然とフォーカスを当てて読んでいたのもあると思うけど。
…ピッタリ、だと思ったんだよな。
このキャラに、赤澤くんの声が。
「凄いね…ほんとに、このキャラの声をするなんて。楽しみ」
「…練習しようかな」
「え?」
「そこまで読んだなら、最初の方の展開とかは頭に入ってるでしょ。基本的にアニメも漫画と台詞は変わらないから」
チラッと見せてくれた台本には、漫画の展開と変わらない台詞が並んでいる。
上にそれぞれの名前が振り付けであって、赤澤くんは自分の台詞の所に細かく線をつけたりメモを取っていた。
…こういうの見ると、やっぱり凄いなって思う。
コンコン
2人で台本を見ていると、部屋の扉がノックされる。
あ、赤澤くんのお母さんかな。
「柚月〜彩ちゃん〜一向に降りてこないから、もう持ってきたわよ」
「あ…」
「開けて〜」
扉を開けると、赤澤くんのお母さんが入ってきてテーブルの上にトレーを置く。
「ふぅ、重かった」
「あ、ありがとうございますわざわざ…」
「いーのいーの。柚月が遅いのが悪いんだから。今日は2人とも何するの?」
「台本の練習」
テーブルに広げてある台本や積んである漫画を見て、お母さんはニッコリと笑う。
「あら、彩ちゃんも手伝ってくれるの?ありがとうね」
「い、いえ…全然」
「お母さん友達と買い物行ってくるから。じゃあね〜ごゆっくり〜」
あ、それ食べたら洗い場置いといてねーと付け足してお母さんは出かけてしまった。
「いいお母さんだね、ほんと」
「…先に食べてから練習しようか」
「うん!」
お母さんが用意してくれたご飯を目の前に、私達は台本を閉じた。