最高ランクの御曹司との甘い生活にすっかりハマってます
『仰っていたホテルを題材にした……?』


『ああ。書きたくても……書けなかった』


工藤様……


『君を忘れるために、いろいろ努力したつもりだった。ホテルを出て自宅にいる時も、なるべく小説のことだけ考えるようにしたよ。君が頭に浮かべば、何か別のことをして紛らわせた。だけど……難しいね。心底惚れた女は……そう簡単には忘れられないんだって、初めて知ったよ』


そう言って、工藤様は桜を見上げた。


工藤様のその姿が……春の色に染まってとても綺麗に見えた。


『でも、またここに戻ってきたのは……君の結婚を噂で聞いたから……』


『……私の結婚を?』


『君は、もう結婚して他の男の奥さんになる。そんな幸せになるべき人を、いつまでも俺なんかが想っていたら……ただの重荷になるだけだ。そんなかっこ悪い生き方はしたくないからね。だから、またこの大好きなホテルで執筆を始めようと思った。君も幸せになる、だから俺も……新しい自分に生まれ変わりたいと思ってる。俺は……君の幸せを……』


工藤様は桜から視線を外し、斜め後ろにいた私の方に振り返った。


『ずっとずっと願っているよ。あの彼となら、君は絶対に幸せになれる』
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