それつけたの、俺だよ?-六花の恋ー【完】【番外編2完】
『俺』はコーヒーカップを口元から離して、カウンターに置いた。
「『私』が来るまで、と思って、私が何人の男追い払って来たと思ってるの? 言っとくけどちな、モテるからね? 性格いいし可愛いし。アザのことでからかってくる奴だって、ほとんどちなへの好意の裏返しだからね?」
「……わかってるよ。『俺』のおかげで、俺が千波ちゃん見つけるまで男いなかったって」
「わかってるならいいよ。じゃあ『まことにありがとうございますお姉さま』くらい言ってもらおうかな?」
にんまりする『俺』。
絶対言いたくねえ。自分に対してそんなこと言えるほど変人じゃない。
「それ言ったら『俺』、録音して一生脅しのネタに使うだろ」
「さすが『私』、わかってるね」
「わかるに決まってんだろ。『俺』と俺は、今も同じ人間みたいなもんだ」
坂野千聖と藍田玲哉は別人で性別も違うけど、『俺』と俺の間の境界線は、なんとも曖昧だった。
中身が入れ替わっても大して問題ないかもしれない。
……いや、問題はある。坂野千聖は千波ちゃんの姉で、藍田玲哉は千波ちゃんの彼氏だ。
「……ちなに話したの? 前世での別れを」
「………」
前世の、俺と千波ちゃんの最後。