こんな溺愛、きいてない!
でも、遥先輩も同じ事務所に所属してるなら
鈴之助のプライベートを
売るようなことは
しないはず。


うん、そう信じたい。


大きくため息をついて

陽気に隣を歩きはじめた遥先輩を
力なく見つめた。


透けるような白い肌に、
柔らかな顔立ち。

優しく潤む黒い瞳には
かすかに昔の面影を感じるけれど、

あの頃の優しかった遥ちゃんは
もういない…


女の人みたいな、
綺麗な顔立ちをしてるのに、

人を脅して楽しむなんて、
どんだけ悪趣味なんだ……


そのとき。


「遥先輩っ!」


高い声で名前を呼ばれて、
遥先輩が振り向くと。


「きゃあああああっ!」


校舎を揺るがすほどの女の子たちの悲鳴が響く。


う、うわああ……


今すぐここから立ち去りたい……。


その光景に呆然と立ちすくんでいると、
遥先輩が私の顔をのぞきこむ。


「どうした、凛花?
あ、俺に見惚れちゃった?

そして、また
キスして欲しくなっちゃった?」


「『また』って、言うな!」


必死に記憶から抹消している
ところなのにっ!


なにより、こんなところで遥先輩に
キスされたら即刻処刑されるっ!


はぁ。


背は高いし、スタイルいいし、
顔のパーツは完璧だし、

そりゃ、遥先輩だったら、
モデルでもなんでも
出来るんだろうな……


なにより、
そのキラキラと
まばゆい華やかなオーラが、

周りの人の目を
惹きつけちゃうのはもう、
仕方のないことなんだろうな。


それは自然発生的なもので
どうしようもないのかも
しれないけれど。


遥先輩と歩いていると
当然、学校中の注目を
集めることになるわけで。


遥先輩の隣を歩くだけで

猛烈に目立っているのは、
気のせいだと思いたい……


ああ……


私の静かな学校生活が
ガラガラと音を立てて
崩壊していく……



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