こんな溺愛、きいてない!
鈴之助がセリフをつぶやきながら
自分の部屋にもどっていくと、

微妙な沈黙が訪れた。


はぁ。


いったい、遙先輩は
なにをしにうちに
やって来たんだろう……


「そういえばさ、凛花、
あの犬のぬいぐるみ、
まだ持ってるんの?」


「うん、持ってるよ。
だって、遥ちゃんとの
大切な思い出のものだし」


「それ、見せて」


「なぜ?」


「だって、
もともと俺のだったし」


「『俺』じゃなくて、
可愛い『遥ちゃん」から
もらったものだよ。

だから大切にしてきたんだよ?」


ぷいっと遥先輩に背中を向ける。


「ま、いいじゃん、見せてよ。
つうか、凛花に拒否権なんて
1ミリもないしな」


「そうなの?」


「だって、俺の言うこと
なんでも聞くって言ったじゃん?」


「私、下僕なの?」


「違うよ、カノジョ」


もう、戦う気力も、失せてきた。


「はい、どうぞ」


思考停止のまま、
ドアを開けて、

遥先輩を部屋に招き入れた。


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