こんな溺愛、きいてない!
「鈴之助と一緒にね、
デビューした子がいたの。

その子、初めて出たCMが当たって
ドラマや映画も次々と決まって。

でも、売れ出してすぐに
その子の親戚が、
その子の名前を利用した詐欺商法で
警察沙汰になったりして。

結局、その子、
芸能活動できなくなちゃって」


「まぁ……はめられたり、カモられたり、
よく聞く話ではあるけど」


視線を落としたまま
小さく頷く。


売れて目立てば
足を引っ張られるのは
仕方のない世界なのかもしれない。


でも……


「鈴之助にとっては、
やっと見つけた自分の居場所なの。

あの世界だけは
鈴之助を受け入れてくれる。

鈴之助の持っている
特殊ささえも、大切にしてくれる。

だから、今、
鈴之助が頑張ってる場所を
大切にしてあげたいの」


一日中、部屋で過ごしていた頃の
鈴之助の暗い顔を
いまでもよく覚えてる。


あの頃は、鈴之助の笑った顔なんて
ほとんど見ることができなかった。

荒んだ顔をして、
つまらなそうにPCやスマホいじって。

でも、全然楽しそうじゃなかった。


どうにかしてあげたいのに、
あの時の私は鈴之助に
なにもしてあげられなかった。


「メガネしてないと、
『誰かに似てる』って、知らない人に
声かけられることが多くなったの。

そういうのが怖かったのもあるし、
それに、地味なのは私の性格。
無理してこんなカッコしてる訳じゃない。

私は本当に静かな生活のほうが
合ってると思うし」


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