本当は好きなのに



「そうかなぁ、だってあいつ女子のことは彼女以外、下の名前で呼ぶことはないからさ」


 そう……なの?

 そこらへんのことは、よくわからないけれど……。

 よくわからないけれど、そういうこともあるんじゃないかな。

 彼女以外の女子のことを下の名前で呼ぶことも。

 だから。


「そうかな……」


 私は耀子にそう言った。

 だけど。


「そうだよ。だから遥稀のことは下の名前で呼んだということは……」


 耀子はまだそんなことを言ってきた。

 だから。


「ない‼」


 ものすごく強調して『ない』を言った。


「え……?」


 私が言った『ない』があまりにも迫力があったのか。

 少しだけ驚いた様子の耀子。

 それでも。


「そんなの、ないないないないない‼」


 私は思いっきり『ない』の言葉を連発した。


「ちょっと遥稀、なにもそこまで『ない』を連発しなくても……」


 少しだけ戸惑いながらそう言った、耀子。

 耀子は戸惑っているけれど……。

 そもそも私が『ない』をものすごく強調して連発して言ったのは、耀子が変なことを言ってきたから……。

 ……あいつが……松尾が……私のことを……好……き……だとか……。

 そんな……そんなこと……。

 ……そんなこと……そんなこと……あるわけがない。

 ……あいつが……松尾が……私のことを……好……き……だなんて……。

 そんな……そんなわけ……。


 ……あ……。
 なんか、そんなことが頭の中を駆け回っていたら……。


< 19 / 65 >

この作品をシェア

pagetop