本当は好きなのに



 私は声がする方を振り返った。


「遥稀……追いついた……」


「松尾……」


「ちょうどオレも帰るところだから一緒に帰ろ」


 ……‼


「……え……」


 …………。

 松尾……。

 …………。

 松尾と……。

 一緒に……。

 帰る……。

 …………。

 それは……。


 私は松尾に「一緒に帰ろ」と言われて困ってしまった。

 困ってしまったから、なかなか言葉が出てこない。

 どうしよう。
 このまま無言でいると、松尾に申し訳ない。
 早く何か言わないと。

 と、思うのだけど。
 何かを言わなければいけないと思えば思うほど。
 ますます言葉が出てこない。

 全く言葉が出てこないから。
 私は、だんだんと焦りを感じてきた。

 焦りを感じているせいか、変な汗がジワリと出てくる。

 このままでは本当にまずい。
 そう思っていると。


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