本当は好きなのに



「……な……なに……話って……」


 私は、もっと戸惑いがまるわかりに混じった言い方で返事をしてしまった。

 ……のだけど……。


「……遥稀……」


 松尾の真剣な表情。そして真剣な眼差し。

 見た瞬間は戸惑った。

 戸惑ったけれど。
 なぜか今は。
 そんな松尾の真剣な眼差しに吸い込まれそうになる。

 松尾の真剣な眼差しは純粋過ぎるくらいに美しい。
 私は、そんな松尾の瞳から目を逸らすことができない。
 まるで金縛りにでもあっているかのような。
 それくらい松尾の眼差しは強力なものに感じる。
 そんな眼差しで見つめられたら、誰も逸らすことができないと思う。


 ……ドキッ……。

 え……。

 ドキッ、ドキッ……。

 うそ……。

 なんで……。

 なんで……どうして……。

 松尾に真剣な眼差しで見つめられていると……。
 胸の鼓動が……。
 胸の鼓動が……高鳴ってくる。

 そして。
 身体中の体温が。
 一気に顔に集中するかのように。
 ……熱い。
 顔が……。
 顔が急激に熱くなっている。
 急激に顔が熱くなって。
 まるで茹蛸のように。
 顔が真っ赤になって……。
 なんで……なんで、こんなこと……。

 ……嫌……。
 真っ赤になっている顔。
 松尾に。
 松尾に見られていること。
 すごく。
 すごく恥ずかしくて。
 恥ずかしくて……っ。

 …………。

 ……見ないで……。
 そんなにも私のことを見つめないでっ……松尾……っ。


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