本当は好きなのに
本当は急ぎの用事なんて何もなかった。
何もなかったけれど、私は急いで松尾と香原さんのいる空間から立ち去った。
……だって……。
だって……耐えられなかった……から……。
松尾と香原さんの……あの二人の空間に……。
だから、そそくさに二人のところから立ち去った。
でも、そのことを松尾に知られたくない。
松尾と香原さんの二人の空間に耐えることができなかったから……なんて、そんなこと……。
「遥稀?」
……‼
松尾と香原さんの二人の空間に耐えられなかったことを思い出して。
思い出して辛くなってきたから。
だから。
その辛くなってきた気持ちが、そのまま表情に出てしまったのだと思う。
たぶん今の私は、かなり辛そうな表情をしているのだろう。
だからだと思う。
松尾が心配そうに私の名前を呼んだ。