Brillante amore! ~愛と涙のアオハルstory~
スプリングコンサート
今日は4月11日。
時間は7:10。
私は、朝練の為に学校へと来ていた。
家から15分程自転車を漕がせて去年と場所の変わった駐輪場に自転車をとめる。
…今日も一番乗り。
こんなこと言うとみんなが褒めて謙遜する羽目になるので言わないけれど、私の“学生指揮者”という役職は部内で1番努力しなくてはならないと思っている。
――何せ立場が微妙だからね。
勿論我が部のトップはりんである。
それは変わりないし、それが我が部に適しているのだ。
ただ、基礎合奏などの指導が圧倒的に多い学生指揮というものは、立場は部内で3番目であるものの、音楽的な面としてはトップである。
…人の上にいるということは、何かあった時には責任を負わなくてはならない。
だから、部内で誰よりも努力して上手くなりたい。
そうして、ゆうに教えてもらいながらピアノが弾けるようになり。
先輩からもらったアドバイスを活かして必死にトロンボーンを吹いたり。
本をかって楽譜を読めるように、音感を身につけるようにしたり。
入部した時からの吹奏楽への愛情はまだ覚めていない。
ずっと目標にして果たせていない“全国大会出場”もまだ諦めてはいない。
そんなことを考えている間に、音楽室に着いた。窓からりんの姿が見える。
(…あれ?)
音楽室の扉が空いていない。
前顧問である谷先生は私たちが来る1時間前には音楽室をあけ、快適な環境になるようエアコンをつけたりしてくれた。
(設楽先生はそういうタイプじゃないのね。)
1つ顧問の特徴をつかみ、職員室で音楽室の鍵を貰う。
予想通り、設楽先生は学校に来ていない。
……この分じゃスプリング危ないな。
そう。私たちは1週間もしないうちにスプリングコンサートという演奏会が控えている。
ただ、先生方の異動の関係で(谷先生は定年退職なので顧問が変わることは分かっていた)なかなか曲を決めることが出来ず、仕上がりが危険である。
(昨日のパート練習で聞こえてきた新曲かな、今日は)
楽器を組み立ながら考えていると、扉が空いた。
「おはよ。」
先程窓から見かけたりんである。
「どうしよ美玲」
「りん、目的語がない」
「ちがう、あのね、推しが尊い」
「…そうか」
りんは重度のオタクだ。ただ、守備範囲が広いので、アニメか、漫画か、歌い手かがわからない。
りんの語りをさんざん聴きながら、マウスピース(マッピ)でバズイングをする。
…語り尽くしたかな。
「うん、幸せ」と言い残して楽器を準備しに行ったりんを見送る。
よし、チューニングしよ。
♪~
…ちょっとドの音が高い。
♪~
よし、大丈夫。
♪~
そんなこんなでウォーミングアップを進めているうちに、かなりの人数が集まってきたようだ。
当たり前か、5分前だもの。
朝練は7:30に開始する。
代替わり直後はなかなか時間内に集まる人が少なかったのだが、谷先生のおかげで遅刻する人は少なくなった。
…にしても、設楽先生は来るのか。
そう考え、りんとゆうに目を向けてみると、2人も同じことを考えたのか、お互いにジェスチャーで会話をしていた。
けいが来たら聞いてみよ。
恋人同士なのだから一緒に登下校しないの?とりんはいうが、けいの家は学校から近すぎて登下校の感じがしない。
それに、けいは朝がとても弱い。
だから登下校したいとも思わないし、する気もない。
去年の合宿で朝結構不機嫌だったな、と思い出していると、タイミング良くけいが入ってきた。
いつも通り私の右隣に座ったけいに聞いてみる。
「ねぇ、設楽先生見た?」
するととんでもない返事が帰ってきた。
「いや、それっぽい車もない。」
驚きながら時計を見ると、ちょうど7:30である。
「来ると思う?」
そう訪ねると、けいはこう答えた。
「いつか来るよ。」
ちがう、そうじゃない。