Brillante amore! ~愛と涙のアオハルstory~
けいを信用して考えると、設楽先生はまだ来ないらしいのでとりあえず自分で基礎合奏をしようと考えた。
りんに説明をして許可を貰い、指揮台に上がる。
私は数回手を叩く。
これは、「音出しやめて静かにして」という声では通らない吹奏楽部ならではの指示だ。
「みなさん、おはようございます。昨日はオリエンテーションお疲れさまでした。
設楽先生の来る気配がなさそうなので、とりあえず私の方で基礎合奏軽くします。お願いします」
「「お願いします」」
…40分目安で進めるかな。
そう目論見をたて、指示を出す。
「じゃあハモデがないので、オーボエ…クラでチューニングお願いします」
ハモデ、というのはハーモニーディレクターという機械の略称だ。
キーボード機能とメトロノーム機能が複合しており、大変ハモデには助けられている。
ハモデを使うにはアンプという拡張器に繋がなくてはならないのだが、アンプは昨日オリエンテーションで使ったベースに繋いである。
となると音が聞こえないので、音程が変わりやすい楽器を基準としてチューニング(音合わせ)を進める。
♪~
(音程悪いな、やっぱ)
別にいつものことではあるし、代替わり直後からの状態と比べると良くなった方ではあるのだが、全国大会に出場できるレベルには到底届かない。
「音がある程度定まったあとがぐらついちゃうのと、みんなチューナーみててクラに合わせられてないのでそこ気をつけてください」
「「はい」」
まぁ、次行くか
「次、B♭(べー)ドゥワーの8拍4泊ロングトーンお願いします」
「「はい」」
このB♭というとは、ドイツ語音名である。
実は楽器というのは、ものによってドレミが違うのだ。
そのため、ドイツ音名で統一をしている。
スネアにメトロノームになってもらい、ロングトーンを行う。
ロングトーンはただ音をのばすだけの練習ではあるのだが、奥が深い。
音程や音色、音の形さえも美しくなくてはならない。
地味で飽きやすいが、上達の近道ではあると思う。
♪~
ロングトーンが終わる。
…これはちょっと頂けないかな。
「大丈夫?さっきチューニングしたよね?」
意味深な笑みを浮かべ、声色を変えて喋る私にみんなは(ヤバい)という顔をしている。
おそいわ、最初からやれ。
「朝だからっていう言い訳は受け付けないわよ。設楽先生くじ運悪いっぽいからコンクールの順番1番ってこと有り得なくはないよ」
スポーツもそうだと思うのだが、朝は体が完璧に目覚めておらず、合奏の音は昼より酷いということはざらにある。
しかし、それは言い訳だ。
コンクールで使うホールは、朝は冷えており、音が響きにくい。吹奏楽コンクールの演奏順はくじ引きで決まるため、顧問のくじ運が悪いと朝のホールで演奏することとなり、状況が不利になるのだ。
谷先生はくじ運がよかったのだが、昨日調べたところ、設楽先生の赴任したところは大体くじ運が良くない。
その正体が設楽先生では無い可能性は否定できないのだが、谷先生と同等にはいかないだほう。
技量の足りない私たちは脳でカバーすることも必要だ。
「まず、みんな息が真っ直ぐ入ってないから、姿勢から意識して腹からベルまで真っ直ぐの息を通すこと。
それから、アインザッツがバラバラすぎ。もっとタンギングを明確にして、スネアを聞きなさい。
パーカッションは足で踏ん張れてなくて手首の動きがたまに悪くなってるからそこ改善して」
指示をひとつひとつだす。
「今私が言ったこと、さっき自分が思った良くなかったことを今から15秒で脳にまとめて」
ただ指示をしただけでは意味が無い。飲み込んでもらわなくては。
「OK?じゃあ、今のをくだってきてください」
「「はい」」
現在の時刻7:36。
設楽先生は来るのだろうか。
来ることを願いながら、みんなの音を隅々まで聞いた――