『妄想介錯人』
これらを二人仲良くつつきながら、共通の趣味は音楽と読書だということに華を咲かせ、同じような音楽を聴き、同じような本を読み、人生を運んで来たことを確かめあって白ワインと共に夜は更けていった。
店を出る頃には、二人共ほろ酔い加減でワインに酔ったのか、その場の雰囲気に酔ったのか、僕はとても久々に陽気な気分だった。
家に着くと少し肥り気味の猫がいつも僕を迎える。
しかし、今日は初めて見た彼女に警戒してソファーの下に潜り込んで、そのまま出てこようとはしなかった。
彼女は“ごめんなさい”と云ったが猫は出てこなかった。
「気にすることはないよ。アイツはいつもそうなんだ。気分はこの家の王様で召し使いの僕以外は相手にしないと決めつけてるんだ。誰にでもそうだよ。こちらこそごめんよ」
「まあ……、でも寂しいわ。だって私、猫が大好きなんだもの」
そう云って、彼女がソファーの下に手を伸ばすと猫は後ろ側からひょいと身体の割には身軽に備え付けの棚へと飛び乗ったまま、今度は上からさも偉そうに睨みつけた。