『妄想介錯人』
扉を開けると、目と鼻の奥に染みる酷い悪臭が漂った。
「ウッ。真里(マサト)さん、こんなんよくあるんすか? よく平気っすね」
「ウサギ、鼻で息すんな。馬鹿が。これだから新米は要らねぇっつったんだよ」
「えっ! そんな聞こえるように悪口っすか。ウッ……」
「バァーカ。聞こえるように云わなきゃ意味ねぇだろ。いつまで新米のままでいる気だ、ウサギちゃん」
「そのウサギっての、やめてもらえません? 俺の名前は宇佐美(ウサミ)ですよ、宇・佐・美!」
「一人前になったら、呼んでやるよ。いいから、早くかかれよ」
「あのう、前々から云おうと思ってたんすけどぉ……、俺って生まれも育ちもいいんで、その体育会系なノリについてけないんすけど……」
「あっそう。だから何?」
「……意地悪だなぁ。噂通りだよ……」
「おい、ちゃんと聞こえてるからな。んで、中、何入ってた?」
「オェ……、えぇと……たぶん、レモンっす……」
「檸檬? だけか?」