『妄想介錯人』
ある雨の日、僕は道の真ん中を急ぐように歩き続けた。
傘は差してしたのかもしれないし、いなかったのかもしれない。
決して当てがある訳でもなく、雨の中を歩いていた。
ただ、歩いていたかったのかも知れない。
僕は三年前、同じように歩いていた日の事を思い出す。
そして、同じように陽の暖かい日に歩いた事を思い出す。
夢の中で君と歩いていた光景を思い出す。
ある時は春先の樹々の若葉をなぜるそよ風のように幸せだったり、ある時は真冬のマフラーさえもはぎとる寒風のような悲しみに充ちていた事を思い出す。
午後は晴れていた。
坂の石だたみに水溜まりが光って眩しい。
僕の目に飛び込む。
赤い服の女の人がこちらへ向かって歩いてくる。通り過ぎる瞬間に赤い靴を履いていると気がつく。
僕は白いスニーカーを履いていたが、先ほどまでの雨のせいで少しつま先が湿っているのが判っていた。