『妄想介錯人』
歩く先に僕の好きな珈琲屋の看板が見えてくると口の中にふわぁっと、あのコーヒーの苦味が蘇ってくる。
いつも僕は、このおかげで結局はこの店に入らざるを得なくなるのだった。
そしていつも通り、コーヒーを一杯おかわりして帰る。
この店にはいつだって、足の短い胴長の犬と口髭を生やした親父がいること、酸味を抑えた美味いコーヒーがあることぐらいしか、僕の知っていることはなかった。
店を出ると降り注ぐ陽射しが心地よく、雨のせいで空気が澄んでいることが分かった。
ともかく、雨上がりの空気は洗い流されて綺麗に見える。
思わず深呼吸をして、やはり気持ちがいい。
僕は時々、とても甘いものを欲しがることがある。
そして、この日もそうだった。