『妄想介錯人』
「ねぇ、真里さん。結局、神村の件は自殺ってことで片付くんすかね?」
「まぁ、多分そうだろ。今んとこはな」
「俺、あの作文何かありそうに思うんすけどねぇ」
(……面白いと吐かした割りに作文扱いかよ)
「あれの何が引っかかる?」
「いやぁ、何って云われると分かんないんすけどね」
「どうせ、そんなこったろうと思ったよ」
足早に進む真里に歩幅の違いもあってか、ウサギが時折足を早めながら間合いを詰める。勿論、真里が歩を合わせることなどない。
「ウサギ、オマエあの部屋に何が残ってたか分かるか?」
「はあ? 腐った男……以外にですか? えぇと……あの作文と……」
「そういうんじゃなくてさ」
「……はあ? 云ってる意味が分かんないんすけど?」
変わらず、真里の足並みは早く、ウサギは追いつくのが精一杯だった。
だが、それは足並みだけのせいではないのだろう。
「“パンドラの匣”あれと一緒さ……。希望に取り憑かれた“絶望”だって、気付いちまったのさ」
真里は一度たりともウサギを振り返ることはしなかった。