『妄想介錯人』
坂を登ると甘いものを出しそうな店がこじんまりとしながらも、それぞれに自己主張は絶やさずに並んでいた。
その中から慎重に一軒選んで扉を開け、席につくと僕はモンブランと砂糖を入れない紅茶を注文した。
甘いものを出す店で美味いコーヒーが出たことは未だかつて一度もない。
こんなことを云うと、甘いものを出すお店の店主は怒り出すだろうが、たまたま僕の運が悪いだけなのか?
いずれにせよ、実際にそうなのだから、なんともしようがない。
モンブランは想像よりひとまわり大きく、味はまあまあだったが、何より甘いものが欲しかった僕にとっては上出来の部類だった。
紅茶は少し濃すぎるようではあったが、モンブランの後では対して気にはならなかった。
僕は持っていたタバコに一本火を着けると店の中を見回した。
店には女性客しかいなかった。
急いでモンブランを頬張る僕には、きっと不似合いな場所だったに違いないと思った。
何やら小さな小説から目を離さない客、二つ目のケーキを口に運ぶ客、鏡を覗き込み化粧を直す客、ひっきりなしにお喋りを続ける二人。
そして、僕を見つめる彼女がひとり。