『妄想介錯人』


 ただし、真里にだけ聴こえるサイレンのような耳鳴りの度に、ひたすら薬をバーボンで流し込み、絶え間なく煙草を吸っては、またすぐに次の煙草に火を着けると云う繰り返し。



 当然、不健康な痩せ方にもなる。味わうでもなく、己の妄想を介錯する何かを求め、流し込むだけのバーボンは日々、量が増えてゆく。



「……羨ましい奴だ」



 確かに、そう云ったのかもしれない。
 だが、誰に対してのものなのか知る由はない。


 真っ暗な闇の中で続け様に煙草を二本、灰に変えると真里は己の中で、見つめる意味のあるものだけを選んで見ていた。
 だから、見逃したものが沢山あるのだ。
 しかし、それすらも見ないようにしてきた。
 この煙草の煙たちのように。
 全ては己自身の為に。





 酷い頭痛にめまいと吐き気、胃もズキズキと当たり前のように痛む。
 こんなにも“生きている”と云う証拠を突き付けなければ、己の身体は満足してはくれないものなのか? と真里は思う。


 まるで、無くなってしまった腕が、さも、まだそこに“在る”かのように痛み出し、「まだオマエの腕だ」と主張するようだった。







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