好きって言えたらいいのに

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「いや、あのね…そうだよ、うん。ファンです、ファン。それは間違いない。」
　いつまでも生温い笑みを向ける2人に私は観念して、きっぱりと答えた。
「もういいじゃん。さあ、早くダンスの振りを確認しよう！ちゃんとやらないと終わらないよ！」
　そう言いながら、私はいそいそとポスターを剥がしにかかったのだった。

　それから1時間。
　2人に発破をかけてダンスの練習を始めたものの、それはちゃんとやってもさっぱり終わらなかった。
「えー？なんで違うの？」
「ここ、よく見えない。この人、どういう動きしているの？」
　簡単なダンスのレッスン動画を見ているはずなのに、激むずである。
　素人3人は目をクエスチョンマークにしながら、もう長いこと動画のお姉さんと睨めっこしていた。
「もう無理かも…。我々壊滅的にセンスがない…。」
　夏葉がそう呟いた時だった。

　突然部屋のふすまが開いて、
「かさね！無事か！！？」
なぜか慌てた様子のヘイちゃんが飛び込んできた。

「…あ、なるほど。学校の友達ね。ごめん、ごめん。」
　ヘイちゃんが引き攣った笑みを見せる。
　私の部屋になんて、それこそ10年以上入っていないヘイちゃん。それが何の前触れもなく急に友人たちと一緒の時に姿を見せるものだから、私も思考回路が追いつかず、正直プチパニックである。
「え？なんで？どうして？」
「ごめん、ごめんて。なんか親父が変な伝え方してきて。この前の男かと…いや、誤解は解けたから。」
　夏葉と正太郎も目を点にして私たちのやりとりを見ていた。

「あ、ごめんね。俺、向かいの魚屋の魚住平志です。」
　この微妙な空気に気づいたのか、ヘイちゃんが慣れた様子で初対面の2人に自己紹介をした。
「何？ダンスの練習してたの？懐かしいなあ、俺も高校時代に体育で創作ダンスやったわー。」
　ヘイちゃんはあくまで、『魚屋ヘイちゃん』として2人に接してくれるようである。
　私は、少しホッとして、まだフリーズ中の2人に声をかける。
「驚かせてごめんね。ヘイちゃんは幼馴染なの。」
「今はいいねえ、動画でいろんな振りを紹介しているし。へー、こうするとシャッフルとかわかりやすいな。」
　ヘイちゃんがパソコンの画面に近づき、動画に合わせてリズムを刻む。
　その様子を見ていた夏葉が、我に返ったようにハッとして、ヘイちゃんに詰め寄った。
「お兄さん、ダンス得意なんですか！ぜひ、私たちを助けてください！」
「「へ？」」
　夏葉からの提案に、私とヘイちゃんは2人同時に声を上げた。