好きって言えたらいいのに
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「あー!やばい。私、今日親に早く帰ってこいって言われてたんだった。」
夏葉が慌てて時間を確認する。
「ごめん、もう帰んなきゃ。」
「じゃあ今日はここまでにしよう。いいよ、俺も片づけてすぐ帰るから夏葉は先に帰りな。」
正太郎が夏葉に応える。
「ありがとう!かさねも、本当にありがとね。ごめん、お邪魔しました。」
夏葉はそう言うと、鞄を肩にかけて両手で『ごめんね』のポーズをとり、早々と部屋をあとにした。
階下で夏葉がうちの両親にお礼を言う声が聞こえる。
「よし、じゃあお菓子とか片づけてお開きにしよう。」
私がそう笑いかけると、正太郎はちょっと躊躇ってからベッドサイドを指さしてこちらを見た。
「…さっきまで貼ってあったポスターって、平志さんだよね?」
ドキッとした。冷汗が流れる。
動揺を悟られまいと、平静を装い返事をする。
「うん。…よくわかったね。」
正太郎はこんなことで人を利用する人間じゃない。それを頭では理解しつつも、また裏切られてしまうのではないかという不安が私を襲う。
「あの、でもできればあんまり他の人には言わないでほしい…。」
自分が思った以上に弱気な声が出た。
正太郎のクスッと笑う声が頭上から聞こえた。
「大丈夫。俺がかさねの嫌がることをする訳ないじゃない。」
見上げると、正太郎が優しい笑顔を私に向けてくれていた。
『うれしいねえ、かさねの友達なんてうれしいねえ。』
おばあちゃんがそう言って笑っていたことを思い出した。
「ありがとう…。」
私は涙がこみ上げるのを必死で耐えた。