好きって言えたらいいのに
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帰り支度を終えて2人で部屋を出ようとした時、ふいに正太郎がこちらを振り向いて言った。
「かさねってさ、平志さんが好きなの?」
「…え?」
『好き』という言葉の響きの強さに私は思わず硬直する。
ヘイちゃんに対する感情。
それがどんな名のつくものなのか、私はずっと考えないように、決して形にしないようにしてきた。だってそれはヘイちゃんも望んでいない…それが彼を困らせることになるのは私が一番よくわかっているから。今の関係を続けていくためには、絶対に言葉にしてはいけない感情だと思っていた。
「…ヘイちゃんのことは、一緒にいると温かくて、笑顔を想うだけでドキドキして、ずっと幸せでいてほしくて、できたらずっとそばにいたいって思っているよ。」
「それってさ…。」
正太郎がなにか言おうとするのを私は首を左右に振って制止した。
正太郎がなんだかとても悲しそうな顔をしていた。
「かさね…そんな顔しないでよ。」
今どんな表情を正太郎に向けているのか、私は自分のことなのによくわからなかった。
「時々かさね、学校でもそういう顔してる。」
「…え?」
「なんだかすごく遠くを見ているような、何かを諦めているような顔…。平志さんのことだったんだね。」
正太郎が私の髪を撫でた。
「ちゃんと自分の中で生まれた気持ち、大事にしてあげて。それもかさねの大事な一部分なんだから。」
なぜだろう。
その言葉が私の中で凍てつき固まっていた氷を解かすかのように、私の頬に涙を零した。