好きって言えたらいいのに
2
ヘイちゃんが運転する車の助手席に乗るのは初めてのことだった。
いつもおじさんの手伝いで軽トラを運転しているのは見知っていたけれど、今日はなんだかそれとは全然雰囲気が違って見えた。
「レンタカーを借りたんだよ。ちょっと遠出しようと思って。」
右隣りで見慣れない黒縁の眼鏡をかけたヘイちゃんが、ハンドルを握りながら言った。横顔がかっこいいなと呆けていると、緑の看板が目に入る。
「え?ヘイちゃん、高速に乗るの?」
ヘイちゃんが前を見ながらニンマリと笑う。
「今日は一日つき合ってね、かさねちゃん。」
え…、私、朝ごはんも食べ損ねているんですけど。
そう思った途端、私のお腹はよく聞こえる音で空腹をしっかりと主張したのだった。
ヘイちゃんに爆笑され恥をかきつつもサービスエリアに寄ってもらい、メロンパンを買ってもらった。
お金を払おうとしたら
「つき合わせてるからプレゼント。」
と、頭を撫でてくれた。
一緒に買った飲み物は、アイスティーとホットコーヒー。
コーヒーの香りに誘われて隣りを見上げると、缶を持ち上げてそれを飲み干そうとするヘイちゃんの喉が動いたのが見えた。隣りに座るのは大人の男の人なのだと実感し、私は無言でアイスティーを飲んだ。
「着いたよ、かさね。」
…ん?
目を開けると、ヘイちゃんが私をのぞき込んでいた。
ヘイちゃんのアップだー。…ううんっ?
体を起こす。胸のあたりにかけてあったと思われるブランケットがずり落ちた。
「ごめんっ!」
私、いつの間にか寝ていたみたいだ。せっかくのお出かけなのにと、自分の持続しない緊張感に嫌気が差した。
そんな私に、ヘイちゃんは
「よだれ。」
と笑って、口元を拭ってくれた。
恥ずかしさと尊さで体温が上昇する。
窓の外に意識を逸らす。
「ここは…海?」
車の前方に広がるのは砂浜と大海。
きょろきょろと辺りを見渡せば、今いる駐車場には他に一台も車が止まっていなかった。
「そう、日本海。」
ヘイちゃんはそう答えて、満足そうに微笑んだ。