好きって言えたらいいのに
3
私が寝ている間に、ヘイちゃんは新潟まで車を走らせたらしい。ヘイちゃんはおじさんと昔、この辺りまで釣りをしにきたことがあるのだと言った。
車から降りて、少し歩道を歩いた。波の音が遠くから聞こえてきて、私たちは無言で歩みを進めた。魚市場通りでいろんなお店の魚を覗いた。ヘイちゃんが店員さんと珍しく揚がったという魚の話で盛り上がっていた。エビとホタテの浜焼きを買って、お店の前で一緒に食べた。海水浴シーズンではないためか、東京ほど人はたくさんいなかった。
海に行く途中、ひと気のない公園でタコの形の滑り台に乗ってふざけ合った。私もヘイちゃんも滑り台なんて子どもの時以来で、思った以上に早く滑走するそれに、喚声を上げつつ楽しんだ。
砂浜に着いた頃には、2人とも疲れが出たのか、また無言になっていた。
打ち上げられてからしばらく経ったような流木に2人で腰かけ、海を眺める。
人のいない海だった。波の音とカモメの鳴き声だけが、辺りを支配していた。
どちらともなく、私たちは手を繋いだ。
「かさね、寒くない?」
「うん。」
「…ごめんな。」
ヘイちゃんはこういう時、いつも謝る。
ヘイちゃんに謝られると、胸がキュッと苦しくなる。
こういう時聴きたいのは、『ごめん』じゃなくてヘイちゃんの本当の気持ちなのに。
『ちゃんと自分の中で生まれた気持ち、大事にしてあげて。それもかさねの大事な一部分なんだから。』
正太郎に言われた言葉を思い出す。
忘れないように、勇気を出せるように、胸に刻んだ大切な言葉だ。
心臓の音が、自分の体の中から聞こえるものではないように思えるくらい大きく速く鳴り響いた。
波の音も、カモメの声も聞こえなくなる。
「ヘイちゃん…、私が小学生になった頃に言ったこと、まだ覚えてる?…私、あの頃も今もずっと」
「デビューが決まったんだ。」
ヘイちゃんが私の言葉を遮り、自分の言葉を重ねた。
車から降りて、少し歩道を歩いた。波の音が遠くから聞こえてきて、私たちは無言で歩みを進めた。魚市場通りでいろんなお店の魚を覗いた。ヘイちゃんが店員さんと珍しく揚がったという魚の話で盛り上がっていた。エビとホタテの浜焼きを買って、お店の前で一緒に食べた。海水浴シーズンではないためか、東京ほど人はたくさんいなかった。
海に行く途中、ひと気のない公園でタコの形の滑り台に乗ってふざけ合った。私もヘイちゃんも滑り台なんて子どもの時以来で、思った以上に早く滑走するそれに、喚声を上げつつ楽しんだ。
砂浜に着いた頃には、2人とも疲れが出たのか、また無言になっていた。
打ち上げられてからしばらく経ったような流木に2人で腰かけ、海を眺める。
人のいない海だった。波の音とカモメの鳴き声だけが、辺りを支配していた。
どちらともなく、私たちは手を繋いだ。
「かさね、寒くない?」
「うん。」
「…ごめんな。」
ヘイちゃんはこういう時、いつも謝る。
ヘイちゃんに謝られると、胸がキュッと苦しくなる。
こういう時聴きたいのは、『ごめん』じゃなくてヘイちゃんの本当の気持ちなのに。
『ちゃんと自分の中で生まれた気持ち、大事にしてあげて。それもかさねの大事な一部分なんだから。』
正太郎に言われた言葉を思い出す。
忘れないように、勇気を出せるように、胸に刻んだ大切な言葉だ。
心臓の音が、自分の体の中から聞こえるものではないように思えるくらい大きく速く鳴り響いた。
波の音も、カモメの声も聞こえなくなる。
「ヘイちゃん…、私が小学生になった頃に言ったこと、まだ覚えてる?…私、あの頃も今もずっと」
「デビューが決まったんだ。」
ヘイちゃんが私の言葉を遮り、自分の言葉を重ねた。