好きって言えたらいいのに
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「陣野さん、この書類って、これでいいの?」
私が休憩時、事務室にある自分のデスクでベーグルサンドを食べながらスマホを開いていると、職員室からやってきた年配の先生に声をかけられた。
「あ、これはですね…。えっと、記入例が確かこっちにあったので…ここに購入希望物品名を書いて、あとはこの記入例通り書いて申請してください。」
私はあわてて口を拭いて、ファイルを取り出す。
「ありがとう、本当に助かるよ。こういうのにはめっきり弱くてねえ。ところで、ごめん、画面が見えちゃったんだけど、陣野さんも『F-watch』のファンなの?」
「…え?あ、はい。」
私のスマホを指さしていた手を、顎に持っていってひと掻きし、少し躊躇いながら先生は続ける。
「実はうちの小学生になる孫も好きでねえ。よく『お前にとっては父親とそんなに変わらんだろう?』って話すんだけど、『ヘーちゃんはキラキラしている』って言ってねえ。」
先生は少し恥ずかしそうに、それでいてとても優しい表情で笑った。
「『F-watch』に憧れて、ダンスまで習い始めちゃって。定年したら、俺が送り迎え担当だって。」
私もそんな話を聴いて、なんだかとっても心が温かくなり、一緒になって微笑んだ。
ヘイちゃんのがんばりが魅力となって、みんなの心を動かしているのがとても嬉しかった。
そんなことのあったあと、午後からの始業の準備をしていると、グループアプリからメッセージが届いた。
夏葉からだ。
そこには
『今日、夜7時。いつものお店に集合ね!』
というメッセージが、ビールジョッキを持つかわいい子リスのスタンプとともに表示されていた。