好きって言えたらいいのに
5
翌朝、土曜日で仕事が休みだった私は、ベッドの中でぬくぬくと惰眠を貪っていた。
そこに通知音が鳴り、なんとなく気になってスマホに手を伸ばす。
『速報:F-watch解散発表。テレビ中継。』
「…へ?」
目を疑った。
飛び起きて、夢じゃないか一度周りを見回す。混乱した頭を抱え、慌ててパジャマのまま階段を降りた。
「お母さん、テレビ!!」
お母さんはリビングでおばあちゃんとお茶をすすっていた。
「何、もう。寝巻のままなんてだらしない。」
お母さんの小言を受け流しつつ、リモコンを探す。
もうっ!なんでこんな時に見つからないの?
焦る気持ちをなんとか抑えつつ、新聞の下にあったリモコンを見つけ出し、テレビをつけた。
テレビの向こうで『F-watch』の5人が並んでインタビューに答えていた。
「あら、ヘイちゃん?」
おばあちゃんが老眼鏡をかけてテレビを観た。
「え?解散するの?」
私はお母さんに向けて口元に人差し指を立てて、静かにするよう求めた。
『えー、ではこれから質疑に入らせていただきます。』
ホテルだろうか、とても広い会場にたくさんの報道陣と金屏風。メンバーの表情はとてもにこやかだった。ヘイちゃんも笑っていた。その姿を見て、ちょっとホッとする。
ヘイちゃんは冗談を交えつつ、でも大事なところはちゃんと真剣に答えていた。
解散後の進退について、俳優やタレントとして活動を続けていくというメンバーもいる中で、ヘイちゃんは芸能界を引退すると宣言した。
フラッシュがたくさん焚かれ、画面が眩しかった。
『今までたくさんの方に支えてもらい、本当にありがとうございました。僕は歌とダンス、F-watchが大好きです。そして、もう1つ大切なものがある。今度はそれを大事にしたいと思っています。』
ヘイちゃんはそう語って、カメラに満面の笑みを向けていた。