【女の事件】とし子の悲劇・最終回~漆黒の火砕流
第4話
それから4時間後のことであった。

上田市の電子部品工場からお迎えの車が家の前に到着していたので、ダンナが元カレの部屋に呼びに行った。

「ゆうき!!まだ支度ができてないのか!?いつまで工場の人を待たせる気だ!?甘ったれるのもいいかげんにして、支度しなさい!!お兄さんの言うことが聞こえないのか!?」
「あなた…もうやめて…」
「しかし…」
「もういいわよ…アタシ、工場の人にお断りするから…」

アタシは、工場の人に(元カレ)はやる気がないからと言うて職場実習をお断りした。

アタシは、一体何をやっていたのだろうかと思ってむなしい気持ちに包まれた。

この時、遠くに見える浅間山がゴゴゴ…と恐ろしいマグマの音を立てていた。

昨日の昼、近所の奥さまとひどい大ゲンカを起こしたので、アタシの気持ちはギブアップしそうになっていた。

工場の人が帰った後、アタシとダンナは家の中に入って、居間のダイニングテーブルで話し合いをした。

「アタシ…いらないことをしたかもしれないわ…」
「とし子は何も悪くはないよ…悪いのはみんなぼくの方だ…」
「どうしてよ?」
「ゆうきがとし子と付き合っていたことが原因でトラブった時、オヤジがゆうきを差別する言葉を言うたことが原因なんだよ…ぼくの上の兄たちは、肩書きがあるのだよ…自衛隊の統合幕僚長、外務省のエリート職員、広島県警の捜査1課長、ぼくは一流医大の顧問という肩書きがある…ゆうきだけは中学しか出ていない…と言うよりも、オフクロの実家の祖父のコネで今治の私立高校に進学したけれど、1日でくじけた…寮生活している時、気に入らない先輩がいたから…殴りあいの大ゲンカを起こした…実家へ帰っても、居場所がなかった…ゆうき…家出して…山口の警察署に保護された…学校は中退…それから職を転々としていた…ケーサツ沙汰をくり返していた…ふざけるな!!オヤジは広島県議会の議長を8回務めたからエライと思っている!!世間体ばかりを背負っているくせに、やくざとの付き合いがあった!!今治のやくざの組長から腕時計や高級品をもらっていた!!…もうだめだ…」

ダンナはアタシにこう言うた後、激しく泣き出した。

アタシは、大きくため息をついてからこう言うた。

「あなた…アタシ…今から村を出て行くわ…ここにいたら、アタシ…殺される…」
「分かってるよ…オレ、結婚は始めから向いていなかった…もういいよ…ぼくも、この家から出る…ゆうきはぼくがどうにかするから…」

この後、アタシは着替えとメイク道具をボストンバックに詰めて、荷造りをした。

夕方4時過ぎに、アタシは着替えとメイク道具を詰め込んだボストンバックとさいふとスマホと貴重品が入っている赤茶色のバッグを持って、再び旅に出ることにした。

ダンナの家に居続ければ、元カレに殺される…

12度目の結婚生活が破綻した。

アタシの乳房(むね)の奥の傷は、さらに痛んでいた。
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