医者の彼女

プロローグ

20年前、私は産まれた。

父親は割と名の知れた医者のようだった。
当時、秘書だった愛人に私を産ませたが、
その女は私が1歳になる前に別の男と蒸発した。

父親は世間体や自分の家庭が大事だからと
私を捨てようとした。
そんな私を不憫に思ったのか、見兼ねた
父方の祖父が引き取り、育ててくれた。

幼い頃、熱を出した私を心配して祖父は
医者である父親に診せようとしたが、激怒した。
「世間体を考えろ、あり得ない」と。
意味は分からなかったが、おそらく戸籍の
問題などで、私の名が知られ、関係性が
バレる事を警戒してたようだ。

私は病院には行ってはダメなんだと悟った。

それ以来私は、病院に行くだけで泣いたり、
嘔吐してしまうようになり、風邪を引いても
怪我をしても病院に行くことはなくなった。

もともと病気がちだった祖父も、
私が病院に行けない事を気にして、
あまり病院にかからなくなった。

それが祟ったのか定かではないが、
私が17の時他界した。

祖父の葬式の日。
父親は私に500万円の通帳だけを渡すと
「もう親でもなんでもないから。関わらないでくれ。」
と言って消えた。
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