医者の彼女
荷物を持ち、部屋を出る。

マンションのエントランスを抜けようとすると
管理人さんに声をかけられた。

管理人「お出かけですか?」

たまに挨拶くらいはしてたけど、
こんな風に話しかけられるのは初めて。

「…あ、はい。ちょっと。」

不思議に思いながらも当たり障りなく返す。

管理人「…大丈夫ですか?」

多分泣いているから。

「…大丈夫…です。」

管理人「…夜は雨が降るそうですが、
傘はお持ちですか?」

そういえば…ニュースでそんな事言ってたかも。

でも、取りに帰る暇なんてない。
和弥さんの事だから、電話に出ないのを
不自然に思って帰ってくるに違いない。
早く出て行かないと鉢合わせてしまう。

「…はい、大丈夫です。ありがとうございます。」

そう言って出ていこうとするが、さらに続けられる。

管理人「あの…失礼な事を聞きますけど、
どちらに?」

「……。…失礼します。」

どこに行くなんて、自分でも分からない。
頼れるアテなんてないし…

でもここにはもう居られない。
その気持ちだけだった。
< 183 / 200 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop