ねえ、知ってる?【上】



 この場から逃げ出してしまいたい。


「今日とっても楽しかったし、苗ちゃん見たら手繋ぎたくなっちゃったし・・・・・・」


 声が出ず、ただうなずくことしか出来なかった。


「だけどね、俺はまだ美舟を忘れられない」


「・・・・・・はい」


 その名前だけは聞きたくなかった。


 忘れたかった。


 美舟さんは私たちの目の前から消えていったのに、まだ雅暉さんの中からは消えていかない。


 一気に楽しかった雰囲気から地獄に連れて行かれたみたいな気分になった。


 駅からここまで歩いている時間に戻って欲しい。


 そしてあの時間がずっと終わらないで欲しかった。


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