春色カレンダー ~31日の青春~
3月4日(水) 文字と声
彼女───菜野爽乃に俺はなんで連絡先を聞いたんだろう。気がついたら自然に口から言葉が出ていた。女子に連絡先を聞いたのは初めてのことだ。
心の奥で彼女ともっと話したい、このままで終わってしまうのは嫌だ、と思ったのだろうか。自分の気持ちなのによくわからない。
昨日スーパーの前で会った時間から一時間ほど遅い時間。今頃彼女は家にいるだろうか。携帯を手にベッドの上に座り壁に寄りかかったまま結構な時間が経過していた。
いざ連絡しようと思っても用があるわけでもなし、なんて送ればいいのだろう。とりあえず『卒業式いつ?』と無難な質問をしてみる。
10分ほどして『9日(月)だよ。そっちは?』と返信がある。『うちも同じ。』すぐにそう返すと3分くらいしてから『なんかもう卒業とか信じられないかも。あ、そうでもないかな。』という曖昧な返信がある。
俺から話を振っておきながら味気ない返信をしてしまったから、どうやって返したらいいか考えさせてしまっただろうか?
『高校生活楽しかった?』と送ると、今度は5分くらい時間があいた。しまった。聞いたらまずかったかな。
『正直、楽しくはなかったけど、辛くはなかった。勉強ばっかりで、青春っぽい思い出とか全然ないけど、後悔はない。』そんな彼女の返信に『俺も。』とすぐに返した。全く同じことを思っていたからだ。
『・・・でも、実はちょっと寂しいかな。』今度はすぐに返信があって、その後に切なそうな顔をしたペンギンのスタンプが送られてきた。
それを見て胸の奥が小さく疼いたような気がした。
『じゃあ一緒に思い出作る?』
小さな疼きが強い衝動となって、脳の命令を受けずに指が勝手に動きそんな言葉を組み立て、送信したようだった。
返信はしばらく来ない。きっと戸惑っているんだろうな。言い出した俺だってどういうことなのかよくわからない。
でもこのまま話が終わってしまうのは嫌だと自分が思っているということだけは自覚出来て、気がついたら電話を発信していた。
『・・・もしもし』
彼女の声は明らかに戸惑いを含んでいた。けれど出てくれたことにホッとする。
「ごめん、急に変なこと言って。」
『ううん・・・その、びっくりして・・・あの・・・どういうことなのかなって。』
「9日に卒業式あるけど、31日までは書類上高校生だろ?だからまだ間に合うし、最後に高校生活の思い出作るっていうのもありっていうか・・・その、大学始まるまで暇だしさ。」
『一緒、に・・・?』
彼女が今どんな顔をしているのかを想像する。でも彼女の色々な表情を想像できるほど、まだ俺は彼女の顔を見たことがなかった。かわいいというよりは美人系だったな、というくらいだ。それくらいしか接したことのない女子に、どうしていきなりこんな提案をしてしまったんだろう。
「偶然会ったのも何かの縁だし、きょうだいが同じ学校だし、家も近いし・・・って思ったけど・・・その・・・嫌ならいいんだ、ていうか嫌だよな。ごめん。」
なぜ俺はこんなに必死になっているのか。
『・・・嫌じゃ、ないよ。』
「え・・・?」
ああ今、彼女はどんな顔をしているんだろう。本当は嫌だけれど無理矢理そう言っているのか、少し嬉しそうにしているのか・・・。顔が見えなくて不安になってしまう。テレビ電話にすれば良かった。
『・・・その、ありがたい、というか、もったいない、というか・・・お、お願いできたら、嬉しいなって。』
───あ、今は照れた顔してるかも。
彼女の声を聞いてなんだか心がじんわりと温かくなり、不安はなくなっていた。
「じゃあ、作戦会議しようか。どういう思い出を作るか・・・金曜日の4時に、スーパーの中にあるファストフードでどう?」
明日の木曜日でも良かったけれど、何だかがっついていると思われそうでやめた・・・いや、彼女はそんなこと思わなそうだけれど。
『うん、大丈夫。』
「じゃ、金曜日に。」
通話を終え携帯をベッドの上に置くと今までに感じたことのないようなそわそわした気持ちが胸の中でくすぶっているように感じたけれど、今の俺にはそれが何なのかわからなかった。
心の奥で彼女ともっと話したい、このままで終わってしまうのは嫌だ、と思ったのだろうか。自分の気持ちなのによくわからない。
昨日スーパーの前で会った時間から一時間ほど遅い時間。今頃彼女は家にいるだろうか。携帯を手にベッドの上に座り壁に寄りかかったまま結構な時間が経過していた。
いざ連絡しようと思っても用があるわけでもなし、なんて送ればいいのだろう。とりあえず『卒業式いつ?』と無難な質問をしてみる。
10分ほどして『9日(月)だよ。そっちは?』と返信がある。『うちも同じ。』すぐにそう返すと3分くらいしてから『なんかもう卒業とか信じられないかも。あ、そうでもないかな。』という曖昧な返信がある。
俺から話を振っておきながら味気ない返信をしてしまったから、どうやって返したらいいか考えさせてしまっただろうか?
『高校生活楽しかった?』と送ると、今度は5分くらい時間があいた。しまった。聞いたらまずかったかな。
『正直、楽しくはなかったけど、辛くはなかった。勉強ばっかりで、青春っぽい思い出とか全然ないけど、後悔はない。』そんな彼女の返信に『俺も。』とすぐに返した。全く同じことを思っていたからだ。
『・・・でも、実はちょっと寂しいかな。』今度はすぐに返信があって、その後に切なそうな顔をしたペンギンのスタンプが送られてきた。
それを見て胸の奥が小さく疼いたような気がした。
『じゃあ一緒に思い出作る?』
小さな疼きが強い衝動となって、脳の命令を受けずに指が勝手に動きそんな言葉を組み立て、送信したようだった。
返信はしばらく来ない。きっと戸惑っているんだろうな。言い出した俺だってどういうことなのかよくわからない。
でもこのまま話が終わってしまうのは嫌だと自分が思っているということだけは自覚出来て、気がついたら電話を発信していた。
『・・・もしもし』
彼女の声は明らかに戸惑いを含んでいた。けれど出てくれたことにホッとする。
「ごめん、急に変なこと言って。」
『ううん・・・その、びっくりして・・・あの・・・どういうことなのかなって。』
「9日に卒業式あるけど、31日までは書類上高校生だろ?だからまだ間に合うし、最後に高校生活の思い出作るっていうのもありっていうか・・・その、大学始まるまで暇だしさ。」
『一緒、に・・・?』
彼女が今どんな顔をしているのかを想像する。でも彼女の色々な表情を想像できるほど、まだ俺は彼女の顔を見たことがなかった。かわいいというよりは美人系だったな、というくらいだ。それくらいしか接したことのない女子に、どうしていきなりこんな提案をしてしまったんだろう。
「偶然会ったのも何かの縁だし、きょうだいが同じ学校だし、家も近いし・・・って思ったけど・・・その・・・嫌ならいいんだ、ていうか嫌だよな。ごめん。」
なぜ俺はこんなに必死になっているのか。
『・・・嫌じゃ、ないよ。』
「え・・・?」
ああ今、彼女はどんな顔をしているんだろう。本当は嫌だけれど無理矢理そう言っているのか、少し嬉しそうにしているのか・・・。顔が見えなくて不安になってしまう。テレビ電話にすれば良かった。
『・・・その、ありがたい、というか、もったいない、というか・・・お、お願いできたら、嬉しいなって。』
───あ、今は照れた顔してるかも。
彼女の声を聞いてなんだか心がじんわりと温かくなり、不安はなくなっていた。
「じゃあ、作戦会議しようか。どういう思い出を作るか・・・金曜日の4時に、スーパーの中にあるファストフードでどう?」
明日の木曜日でも良かったけれど、何だかがっついていると思われそうでやめた・・・いや、彼女はそんなこと思わなそうだけれど。
『うん、大丈夫。』
「じゃ、金曜日に。」
通話を終え携帯をベッドの上に置くと今までに感じたことのないようなそわそわした気持ちが胸の中でくすぶっているように感じたけれど、今の俺にはそれが何なのかわからなかった。