夏祭りが終わるまで、この花火が終わるまで
いつから、夏の夜が嫌いになったんだろう。夏の夜は甘酸っぱくて苦くて、嫌いになってしまった。

今年も、また夏が訪れる。夏祭りもやってくる。

「君と、今年もデートできるかな」

ポツリと僕は呟く。でもその言葉は、うるさいくらいに鳴くセミの声でかき消された。



夕方、僕はグレーの浴衣に袖を通す。普段から和服を着ているから、少し生地が薄くなっただけな感じがする。着物より着やすい。

「尻尾と耳、ちゃんと隠れてるよね」

鏡の前に僕は立つ。日本人にはいない真っ白な髪が僕が人でいる時の姿。この白い髪は目立っちゃうから、人になっても街中を歩けないんだよね。

僕の名前は炎珠(えんじゅ)。今は人の姿をしているけど、僕は何千年も生きている妖だ。その正体は九尾の狐。狐だから人に正体がバレたことはない。

今日は一年に一度開かれる夏祭りの日。人間のものじゃない。妖が集う妖のためのお祭りだ。まあ、みんな人間が迷い込んだ時のことを考えて人間に化けているけど……。
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