シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
「俺、鳴海(なるみ) (じん)って言います。そこのアパートの二階に住んでます。お姉さんは?」

 私は、と一旦口ごもり、視線を地面に落とした。

 何だろう? 変に気恥ずかしい。

 きっと若い学生さんが相手だからだ。

「私は……。水嶋(みずしま) 沙耶(さや)、です。直ぐそこの家に住んでます」

 言いながら実家の方向を指差した。

 ちなみに息子は颯太です、と付け加えて言うのだが。

 学生さん、もとい、鳴海くんは何処か神妙な顔つきになり、「……みずしま、さや?」と私の名前を復唱した。

「……あの?」

 そこでハッとした彼と目が合う。

「どうかしましたか? 特別、珍しい名前でも無いんですけど」

「ああっ、いや、」

 鳴海くんはぶんぶんと手を振り、無理矢理笑みを添えていた。

「颯太くんによろしくっ、じゃあ!」

「……え」

 そのままそそくさと踵を返す彼を、私は唖然と見送っていた。アパートに戻った鳴海くんが、二階へ昇る階段でつまづいたのか、「いてっ」と声が聞こえる。

 ーー今のは、何だろう?

 あの反応の意味がサッパリ分からない。
< 10 / 430 >

この作品をシェア

pagetop