シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
 何も言わずにため息だけで応対する。昼食を済ませた学生達が階段を降り、徐々に増えてくる。

「あー……。ゴメン、私そろそろちゃんと仕事しないと」

「あ、うん」

「俺らも昼飯食べに戻るわ。行こう、愛梨」

 澤野くんに手を引かれ、愛梨ちゃんが階段へ向かう。帰り際、「また恋バナしようねっ」と言われ、私は笑顔で手を振った。

「すみません、祥子さん」

「ううん、全然大丈夫。まだ忙しくないから」

 私は購買の中を見渡した。学生は増えたけれど、文房具のペンを選んでいる子や、(ぼたん)を選んでいる子がほとんどで、間に合ったなと思う。

 レジ担当の祥子さんをフォローするのが今日の私の仕事だ。例えば、文房具や釦なんかの細かい商品を袋に入れて生徒に手渡す。そうやって、並んだ生徒たちをさばいていくのだ。

「しかし、アレだね」

レジの前に立ちながら、祥子さんがしみじみと言った。

「沙耶ちゃんが仁くんとっていうのは、びっくりしたけど……今思えばしっくりくるよね」

「え。そう、ですか?」

「うん。何て言うかさ。雰囲気っていうか……フィーリングが合ってる気がする」

 キョトンと目を瞬いていると、「感覚だけどね?」と言って祥子さんが微笑んだ。

 程なくして、釦を選んだ子とペンの種類を決めた子がレジに並ぶ。

 ーーあ…っ。
< 117 / 430 >

この作品をシェア

pagetop