シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
「……あ。うん、その。颯太に黙って出て来たから。携帯、忘れちゃって」

「……そっか」

「あの。都合、悪かった? 今からどこか出かけるの?」

「……いや。そういうわけじゃ無いんだけど」

 ーーなんだろう?

 鳴海くんはどこか余所余所しく、私から視線を逸らした。

 途端に息苦しさを感じ、不安になる。まるで心臓を暗い沼に落とされたみたいだ。

「勘違い、しないでね?」

「え…?」

「俺も、沙耶さんに会いたいと思ってるよ?」

 ーー本当?

「けど。顔合わすのは、朝の電車の中とか…。学校だけにした方が良いと思う」

「何で?」

 そこで彼は、うーん、と頭を抱え、「とりあえず」と口にした。

「今からコンビニ行こうと思ってたんだけど……行く?」

「……うん」

 本来の目的を果たすため、私はすれ違う彼に続いて階下(した)に降りた。

 トムカ博に行って以来、鳴海くんの態度が何だかつれない感じがして寂しくなる。クリスマス前の時期で、親密さを醸すカップルが街中でちらほらと見受けられるから尚更だ。

 私たちは恋人同士でも、こうは出来ないんだと思い知らされる。

 二人きりで歩いている今だってそう。鳴海くんは両手をダウンのポケットに突っ込んでいて、手すら繋げないんだ。
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