シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
 不意に鳴海くんが謝るので、私はキョトンとする。最寄駅から家までの距離を、自転車を押しながら並んで歩いていた。

「映画以外は俺が決めちゃって。沙耶さん、どこか行きたい所無かったかなって……今ごろ気になって」

 瞬間、ギクッとした思いで目が泳いだ。

「……え。あ〜……、ううん? 大丈夫っ。特別どこも考えて無かったし、鳴海くんと一緒にいれて凄く楽しかったから」

「……本当?」

「うんっ」

「そっか。それなら良かった」

 私は笑みを絶やさず、目線を地に据えた。すると突然何かを思い出したように、鳴海くんが「あ!」と声を上げる。

「あのさ。沙耶さんに一つだけお願いがあるんだけど」

 ーーお願い?

「なに?」

「あの……アウターを一着貸してくれない、かな? 普段、着てないやつで良いんだけど。出来れば一週間ぐらい」

「え、アウターって。コートとかダウンの事?」

「うん。秋ごろ来てたジャケットとかコーディガンでも大丈夫なんだけど……だめ?」

 首を傾げるその仕草に、つい可愛いなと思ってしまう。

「う、ううん。いいよ、別に」

「本当?」

「うん。でもレディースだよ? 大丈夫?」

「うん。それは全然」

 彼と二人で歩く道は幸せで、あっという間に家へと着いた。
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