シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
「あのさ、沙耶ちゃん」

「うん? なに?」

 最後に(ぼたん)を買った男の子が、真面目な顔付きで言った。

「さっき聞こえちゃったんだけど、結婚したの?」

「……へ?」

 唖然とする私を見て、その子は私の左手を指差した。

「……あ、あ〜…違うよ? そういうのじゃなくて、これは」

 彼氏から普通にプレゼントされた物だと説明しかけるが、そこでチャイムが鳴る。

「あ、教室戻らないと!」

 授業が始まる五分前のベルだったようで、澤野くんと愛梨ちゃんも急いで模造紙を買って階段を昇って行く。蜘蛛の子を散らすそのさまを見て、私は呆気にとられた。

 暫し何も言えずにいると、祥子さんが言った。

「完全に誤解されたね?」

「え?」

「沙耶ちゃん、結婚してると思われてたね。仁くんの思惑通り」

 祥子さんは傍観者の如く楽しそうに笑い、商品チェックの続きに取り掛かった。

 *

 翌朝、駅で待ち合わせをした彼に、薬指の指輪の事で「結婚してると勘違いされたんだよ」と何気なしに話をした。

「……仕事の時は右手にした方が良いのかなぁとも思ったんだけど。右手だと第二関節に引っかかって、抜く時だけ時間がかかるの。周りからやいやい言われるぐらいだったら、いっその事しない方が良いのかな?」

 電車を待つ間、ホームに並んだ彼に尋ねると、鳴海くんは「うーん」と言って首を傾げた。

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