シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
「でも。家では指輪できないでしょ? 颯太くんの手前」

「あ、うん」

「だったら学校ではちゃんとしててね? 左手の薬指に」

 どこか意味深に笑う彼を見て、私は黙って頷いた。程なくして、待っていた電車がホームへと滑り込み、私たちの前で扉を開いた。

「あ。それにね? 祥子さんが鳴海くんの思惑通りだねって楽しそうに笑ってたよ」

 乗車してから思い出した事を言うと、鳴海くんは眉を下げて嬉しそうに笑った。

「流石だなぁ、祥子さん。主婦なだけあってよく分かってる」

「え?」

「沙耶さんは俺の奥さんになる人だからね。四月には新入生だって入って来るし、今からちゃんと周りに知らしめておかないと」

 ね? と言って微笑まれ、瞬時に頬が熱くなった。

 *

 それから一週間ほど経ち、仕事から帰宅した夜の事だ。何となく颯太の表情が沈んでいるように見えて、心配になった。

 いつものように布団に入り、寝かしつけのために棚から絵本を取った時。颯太が弱々しい声で「ママ」と呟いた。

「うん? なぁに、颯ちゃん」

「……あのね。ぼく、悪い子なんだって」

「……え?」

 瞬間、自分の表情が固まるのを感じた。

 水色の掛け布団を小さな手でギュッと握り締め、颯太が悲しそうに言った。
< 219 / 430 >

この作品をシェア

pagetop