シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
 ちゃんと起きている事に安堵し、私は彼のアパートへと小走りで向かった。その間に、彼からも【おはよう】のスタンプが送られてくる。

 アパートの二階にある角部屋の前でキュッと右手を握り締めた。上がった息を整えてから、インターホンを押す。少しの間をおき、ドアが開いた。

「……沙耶さん。どうして」

 言うまでもなく、鳴海くんは驚いていた。

「急にごめんね、今日休む事になったから、お弁当だけ届けに来たの」

「え……」

 ハイ、と言って渡すと、鳴海くんは首を傾げながら「ありがとう」と受け取ってくれた。

「まだ颯太が寝てるから急いで戻るね。じゃあ」

 そのまま踵を返そうとすると、「あ、待って!」と引き止められた。

「今日休むって…颯太くん、病気?」

 心配そうな顔をする彼を見て、私は小さく微笑んだ。

「……風邪ひかせちゃって。熱があるの。だから、今日小児科で診て貰うね?」

「……あ、うん」

 それじゃあ、と手を振り、今度こそ彼に背を向けた。

 家に帰る道すがら、何気なく思った。「診て貰うね」という言い回しは、まるで共に子供を育てるパートナーに向けた言葉みたいだ。

 颯太の父親は、鳴海くんしかいないと私自身が願っているせいだろう。颯太の拠り所が私であるように、私のそれは鳴海くんなんだ。

 玄関扉を開ける手前で、スマホが音を鳴らす。
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