シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
「そんな事ないよー。沙耶ちゃん知らないと思うけど学生の間で密かに人気だよ? ほら、前に来た“チャック”とか、沙耶ちゃん狙いで購買来るんだよ?」

 ーーチャックって。

「ああ、確か。澤野くんって子ですよね?」

 鳴海くんの友達の。

「そうそう」

 あだ名の由来は既に聞いている。私が務めるより前に働いていた人が、ファスナーをチャックチャックと言って探す澤野くんにそう名付けたそうだ。

「……恋愛。するとしても、学生は絶対に無いですよ」

 と言うか、今の状況だってモテているのでは決して無いと思うし。言うなれば、動物園に急に生まれたパンダの赤ちゃん状態で、物珍しいから寄って来るだけだ。

 学生たちが飽きるまでの辛抱。

「それにここの子たちはみんな、何かしらの夢を持ってる訳ですから…彼らの夢を邪魔したくないし」

「うーん、まぁ、ね。沙耶ちゃんも息子ちゃんの事を考えたら、ちゃんと働いてる社会人のほうが良いか……」

「はい。結婚できないなら、恋愛する意味無いですから」

 そうは思っても、元カレに手酷く捨てられた私が、これからまともに恋愛して、結婚を考えられるとも思わない。

「あれ、仁くん。もしかして何か欲しかったの? 残念っ、もう閉めちゃったよ?」

「あ……」

 いつの間にいたのか、階段から降りて来た鳴海くんと出くわした。今日は赤いフレームの眼鏡をかけている。
< 23 / 430 >

この作品をシェア

pagetop