シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
「じゃねっ、仁くん。とりまバ先で! お疲れ〜?」

「おう、お疲れー」

 階段を昇る彼女を何となく目に留めた時、ほんの一瞬だけ目が合った。

 ーーえ。

「沙耶ちゃん、模造紙十五枚、三本いける?」

「え、ああ。はい」

 祥子さんの呼びかけにハッとして、慌てて模造紙を巻きに休憩室へ行く。折り畳みの机を開いた。

 ーー何だろう、今の。

 もぞもぞとした不安が胸中を埋め尽くす中、私は模造紙十五枚を三回数えてクルリと巻きにかかる。

 ーー何だかすごく……。嫌な笑い方をされた。

「沙耶さん」

「え、あっ」

 いつの間にかすぐそばに鳴海くんが立っていて、ドキンと心臓が跳ね上がる。

「忙しいとこ、ごめんね? 俺もバイト有るから今日はもう帰るよ」

「……あ。うん」

 バイバイ、と手を振る鳴海くんを見つめ、暫く手が止まる。

「お姉さん、模造紙まだー?」

「あ、ごめんね。もうすぐ出来るからっ」

 両端に慌てて輪ゴムを二つ留め、待っていた三人の女の子に、順番に手渡した。

「て言うかさ、腑抜けすぎでしょー?」

「まぁまぁ。新婚ならそんなもんじゃね?」

「つか、仁くんが見ていてフビン〜」

「だねー」

「ホント可哀想。拾ってあげたーい」

 きゃははは、と笑い声を上げ、模造紙を渡した女子グループが去って行く。

< 233 / 430 >

この作品をシェア

pagetop