シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
「……沙耶さん?」

 私は無言で地を見つめたまま、膝の上に置いた紙袋をギュッと握りしめていた。

 鳴海くんがモテるのは分かってるし、イベントのルール上、誰かが着て見せるのも理解できる。

 鳴海くんが頑張って縫ってくれたこの洋服は何も悪くない、何の罪もない。

 ただ、私が今支配されているこの暗くて刺々しい感情が邪魔なだけ。

「あ、ごめんね。なんか……冷えてきちゃったから、もう帰ろう?」

「……あ。うん」

 それから私は彼と並んで帰宅した。家に入る前になってから、貰ったコートのお礼を再び口にする。

「トレンチコートありがとう。暖かくなったら着させて貰うね?」

「うん。……じゃあ、また明日。おやすみ」

 おやすみなさい、と手を振り、玄関の扉を開ける。

 靴を脱いでから、自分が複雑な心境を抱いていると気が付いた。鳴海くんに会えて、私のために作った服を貰えて飛び上がるほど嬉しいはずなのに。その服に、一番に袖を通したのが、あの臼井さんなんだ。

 綺麗で上品で、鳴海くんとも仲が良くて同じ服屋さんでバイトもしている。

 気にしても仕方のない嫉妬心を抱えたまま、私は貰ったコートを紙袋ごとクローゼットの中に仕舞った。

 *

 翌日、思った通り風邪をひいた。

「…ぶぇ…ックちっ!」

 朝から変なくしゃみを連発し、マスクが手放せない。さっきから電車の中で、鳴海くんが肩を揺らしてクック、と笑っている。

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