シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
 西店で任された業務は、四月に入学して来る学生たちの洋裁道具一式を、プリントの表を頼りに"作る"事だ。その数はざっと四百五十に満たないぐらいで、さっき祥子さんから聞いたFC学科がトップを占める。

 細かい縫針からチャコペンにルレット、メジャーや定規、裁ち鋏、針山などを、製図や図面を持ち運ぶアルタートケースへと詰める。その作業を延々と繰り返す。

 学科によって使う道具も異なるので、間違わないように慎重に組んでいく。それをA3やA4サイズのファイル、アジャスターと呼ばれる筒などと一緒にして梱包し、各生徒の家へと配達してもらう。

 これを大体四月までにやり終えるのが主な仕事だ。

 なので、接客はついでのようなもので、手と目を絶えず動かすため、とにかく肩が凝る。

「お疲れ様でした」

 終業時間の六時半を迎え、私は西店を後にした。駅までの距離を小走りで進み、電車に乗ってからスマホを確認する。

 春休みに入ってから、どうやら鳴海くんは課題とバイトで忙しいらしい。メッセージアプリを通して互いの近況をやり取りするのが日課だ。

 学校で会えなくなると、電話やメッセージのやり取りのみで、彼への恋しさは一入(ひとしお)となった。

 バレンタインの夜に会ってチョコレートを渡すという事もあったのだけど、以前にそれをして風邪をひいたので、度々も会えない。颯太の手前、休日に会うのも難しい。
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